蒼き空に夢見る貴方。
久米橋花純@旧れんげ
第1話
「試合終了!」
あっけなく、終わってしまった。私たちの、3年間が。私も、みんなも頑張ってきたのに。終わっちゃった。
「集合!」
監督が、集合をかける。それぞれ、俯いているが、まだ泣いていない。みんなが泣いてないなら、私は泣いちゃいけない。みんなの方が辛いに決まってる。
「みんな、よくがんばった。3年はこれで引退だか、1、2年は、まだあるから。この悔しさを糧にこれからもがんばれよ。」
あっさりしてる。しょうがないか。監督はそんなに私たちに思い入れがあるわけじゃないし。
「来年の、今頃は、いい結果を迎えられるといいな。今年はもう、"終わり"だ。」
そんなにはっきり言わなくても、いいじゃない。
「3年生から、一言ずつもらおうか。……じゃあ、
瑠偉……。一番悔しいだろうなぁ。夜遅くまで、残って、先生も知らないくらい、練習してたもん……。
「一言で言うと、めちゃくちゃ悔しいです。あんなに、みんなで練習して、協力して、頑張ってたのに、結果はついてきてくれない。でも、これが俺たちの練習の成果、なんだろうな、って思いました。後輩たちには、こんな思いしてほしくない。だから、たくさん練習してください。今までありがとうございました!」
そう言い放った彼は、涙が見えない。なんなら清々しく感じる。どうしてかな…?
「次、
翔太か。エースで、この試合を引っ張ってった。最後のこの試合で、"負け"投手になってしまったけど。一番責任を感じてるだろうなぁ。
「はい、ぇえ、とりあえず、3年間ありがとうございました。今日の試合は、自分の調子がもうちょっと良ければ、勝てた気がするので、すごい悔しいぃ……です……。でも、これまでの練習が無駄なことだとは思いません。1、2年は、この悔しさを糧に、頑張って欲しいです。ありがとうございました!」
3年生の言葉が身に沁みる。みんな、それぞれ思いを抱えてこの試合を迎えてたんだな……。そういえば、翔太"は"泣いてる……。
「次、
凛月は、サボり気味だった。けど、甲子園を目指し始めてから、急に真面目にやり始めた。もともと、素質はあったから、守備がうまい。
「俺は、最初から、真面目にやってれば。みんなともっと一緒に、試合が……。うっ、……。うぅ……。……したかった。最初から、真面目に、やってなくて、ごめん。ずっと、後悔してる。でも、みんなと試合できて、楽しかった。3年間、ありがとう、ございました。」
あの、凛月が、泣いてるなんて。なにを言っても、聞かなかったのに。凛月も、成長したんだな。
「次、
翔琉は、私の、双子の兄……。身内贔屓をしなくとも、1番バランスの取れた、オールラウンダーだった。エースの翔太も、凛月も翔琉には一目を置いていたなぁ。
「はい。今まで、みんなと、練習やってきて、どんどんうまくなっていた、と思ってました。だけど、今日、試合をしてみて、まだまだ、だと思いました。この悔しさを糧にこれからも、続けていきたいです。これで、俺たちは引退になるけど、俺、たまに練習に来ます。1、2年の後輩たちと一緒に、これからも成長したいです! 3年間、ありがとうございました!」
翔琉と、瑠偉は、泣いていない。どうしてよ。泣きたい時は、泣いていいんだよ!?つらいときは、辛いって言わないとわからないよ!?
「次、
これで、最後か。彗は、バッティングがピカイチだった。ウチの高校のホームラン王じゃないかな。そんでもって、部長、だ。まあそりゃ、部長が最後ですよね。今まで、凛月をやる気にさせたり、甲子園を掲げてこのチーム自体を引っ張ってきたのは、彗だ。
「はい……。俺は、部長だったけど、なんにもしてやれなかった。チームを完全に作れたわけでもないのに、勝手に舞い上がって、これで、チームワークも完璧だ、とか、思ってました。でも、そんなことなかった。俺は、浅はかだった。この、試合に負けたのも、俺の責任です……。ごめん。でも、3年間、楽しかった。ありがとう、ございました。」
そんなこと、ない。今日の試合負けたのは、彗のせいじゃないっ……! でも、そんな言葉は出ない。だって、雰囲気に、潰されてしまったんだもの。
「それは、違う。」
その中で、声をあげたのが、翔琉だった。
「今日負けたのは、彗だけの責任じゃない。こんな練習してきて、あんなにみんなをやる気にさせたのは、彗だよ。」
「彗が俺らをやる気にさせてなかったら、俺らはここまで、来てないから。そもそも、ここにいるのは、彗のおかげなんだよ。」
翔琉に続いて、瑠偉まで。
「2人とも……。ありがとな。」
パチパチパチパチ
どこからともなく、拍手が起こる。私は、いい仲間のところで、3年間過ごせて、嬉しかったな。
「最後に、」
? まだ誰かいるの? え、でも3年って、これで全員だよね。あ、監督がまた話す?
「
……、え、私?
「綾音は、3年間、ずっと、この部活を支えてきてくれたからな。怪我の処置も、疲れた時に、スポドリ入れてきてくれるとか、あと、心の疲れも取ってくれてたらしいからな。」
私、そんなこと、した?心の疲れは流石に、取れないよ?私。
「えっと、3年生のみんなは、3年間お疲れ様でした。ずっと、マネージャーって形で近くで見てきたけど、最初、公式戦も出れないんじゃないか、って思ってた。でも、彗が、みんなをやる気にさせてくれて、ここまで成長したと思う。だから、部長には、みんな、頭が上がらないはず。私も上がりません。今の、みんなのチームワークは、どこの学校にも負けない。唯一無二だと思う。
ここからは、1、2年生に向けてだけど。今まで、先輩たちの背中って大きかったでしょ?次は、みんながその番。この後、後輩たちがもっと入ってくるから、いい先輩になってね。今度こそ、甲子園行けるように、なりたいね。もう、あのチームを見れないのはすごく悲しいけど、このチームのマネージャーをできて、楽しかったです……! 最後なのに、偉そうなこと言っちゃってごめんなさい。本当に、楽しかった!」
涙が出そうになったけど、我慢する。だって、部員全員泣くまでは、私は、泣いちゃいけない……。
「綾音が、いなきゃ、ここまでこれなかった。だから、ありがとな。部員全員、お前に感謝してるよ。」
部長から、ありがたいお言葉を頂戴する。
私なんて、なにもできてないのに。
「……あり、がと。」
我慢してたのに。みんなが、そんな優しい声をかけるから、涙が溢れてきちゃったじゃない。
「じゃあ、1、2年は、これからも頑張るように。3年生は、今までお疲れ。」
「あざっした。」
「解散!」
本当に、あっけなく終わってしまったけど、最後の最後までいいチームだったな。私、マネージャーやってて、よかった。
「綾音、俺、帰るけど。どーすんの?」
「ちょっと残る。ノートの片付けとかしなきゃいけなくて。」
「ん。気をつけてね。俺、先帰るね。」
「はーい。またあとで。」
翔琉は、帰っちゃうのか。まあ、これはマネージャーの仕事だから、疲れてる選手たちは早く帰って、休んでほしいけど。
部室にこもって、ノートを整理する。こんなに見てると、懐かしいな。そう思うとまた、涙が溢れてくる。本当にこれで、終わりなんだなぁ、って。だめだめ。ノートが濡れちゃう。急いでゴシゴシと目を擦って、ノートに視線を落とす。
あ、これ、翔太のだ。
そういえば翔太はバッティングフォームが謎だったなぁ。そのたびに、彗が治してて、面白かったなぁ。
これは、翔琉のか。
翔琉は問題なかった方だけど、体力なかったなぁ。体力オバケの凛月に鍛えられてたけど。その度に、悲鳴が聞こえてたなぁ。
あ、これもしかして、瑠偉のじゃん!
1番、ノートが分厚い。だって、夜遅くまで残ってたんだもん。
「あ、それ……。」
蒼き空に夢見る貴方。 久米橋花純@旧れんげ @yoshinomasu
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