第5話 深海
深いところまでやってきたらしい。
どの方向からも海の圧で押しつぶされそうだ。
痛い。いたい。イタイ。イタイ。
たくさんの痛い。
苦しくなってきた。
意識が遠のくことを理解するマンガのキャラクターみたいに自分の感覚はわかりきっているものかと思っていたが、そんなことはなかった。
ただ苦しいだけで、これからどうなるのか、どうなっていくのか、どのように消えていくのかわからないことばかりでどうしたらいいのかもわからない。
どこも暗闇で見えないものばかりで望遠鏡を覗き込んでも見えないほど、相当な深い場所であることだけがわかる。
この地球の半分以上を占めると言われている海。
日頃の視界に見えるその海はおだやかでゆっくりで、寄せては返すただそれだけのおだやかな海。
それでも深くに潜るといつもは見ない表情で奥の冷酷さが見えてくることだろう。
普段は周りに温かくされているが、本当は冷酷で冷たく、容赦のない一面も知ることになる。
まるで表だけ優しくなって裏では悪口を言うあの人みたいでちょっと悲しくなった。
いつからだろう。
ありのままを見せるのが怖くなったのは。
いつからだろう。
私が私じゃなくなったのは。
多面体で過ごす私たちに、一体本質はあるのだろうか。本当とか正解とかあるのだろうか。
その悩みも脳みその深海に沈んでしまうのだろうか。
わからない。
わからない。
流されていたい。
あのさざなみに。
浮いていたい。
あの死んだ魚みたいに。
暗く深い場所まで連れて行かないで。
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