イオンモールを継承ぐ【つなぐ】

奈良ひさぎ

イオンモールを継承ぐ【つなぐ】

 イオンモールによくあるあのピンク色ってどれだったっけな……と思ったが、分からなかったのでとりあえず無難なピンク色にしてみた。


 以前、「イオンモールを揺蕩う(たゆたう)」と称して、全国様々なイオンモールに魅せられていること、中を探検するのが楽しいことを語った。旅行先であってもついつい覗いてしまうような、そんな魅力があるのだ。


https://kakuyomu.jp/works/16818093085377496648/episodes/16818093085385327084


 そんな話をしていたら、「イオンモール系VTuber」という、あまりにも特定分野に特化しすぎているVTuberがにわかに台頭してきた。それが「静馬レイ」氏である。彼は全国のどこにイオンモールがあるかという情報はおろか、それぞれのイオンモールにどんな飲食店やメガネ屋、映画館が入っているかまで事細かく把握しており、はい/いいえの質問からイオンモールを特定する「イオンモールアキネーター」などという一見意味不明な企画もやっている。意味不明と言うと失礼なことに間違いはないのだが、本当に、あまりにも知識が尖りすぎていて、これは明確に誰にも真似されない個性だと思う。

 最近はとにかくマルチな才能というものが重宝される傾向にある。ボカロが作れる、作詞作曲ができる、歌えるしラップもできるしイラストも描けるというのが最近分かってきた米津玄師氏などは、その極致だろう。歌って踊れる声優だとか、イラストが描けてLive2Dを動かして自らVTuber活動ができる小説家だとか、要求は年々ハードになっていっている。しかしこうして、一つの分野を極めに極めた人が蔑ろにされてはいないだろうか。好きを極めるというのは言葉以上に難しいことであり、もてはやされるべきだと私は思う。


 話を戻す。イオンモールは昔から地方を中心に新規オープンを続けており、今もどこかで新しいイオンモールがオープンしている。その規模は様々で、以前の私は好きなイオンモールか、そこまででもないイオンモールかという話をしたが、これは独自な感性であり、普通の人はたかがショッピングモールにそこまで好きや嫌いといった気持ちを抱かないのではないか、とどこかで思っていた。

 普通の人は旅先でわざわざイオンモールになど行かないから、イオンモールといえば家から最も近いそれだけが視界に見えていて、そこに好きも嫌いもない。なぜならば嫌いだと思っても、嫌でもそこが普段の食料品やら何やらを買い物する場所になるのだから。イオンモールと他スーパーが近いならまだしも、イオンモールどうしが目と鼻の先にあるケースは非常に稀だろうし、品揃えを求めるのであれば近所の小さなスーパーよりもイオンモール内のイオンスーパーに通うだろう。そんなわけで、前回の私の言は物好きの戯言に過ぎない、という気持ちを半分抱えながらのものだった。


 しかし、実際はそうではなかった。もちろんイオンモールにここまでの感情を抱く人間がごくごく少数派である可能性はまだ否定されていないが、イオンモールほどのメジャーな施設に並々ならぬ熱意を向ける人間が、他にもいたということになる。静馬レイ氏は万単位の行数はあると見える自作Excelで全国のイオンモールのテナント情報や駐車場の広さなど細かな情報を把握して、全て頭に叩き込んでいる。アキネーター形式の質問で該当モールが0個になる→まだオープンしていない(が近々オープンする予定の)イオンモールが答え、という発想に一瞬でたどり着けるほど知見が深い。もうお前が一番でいいよ、という言葉がこれほど似合うシチュエーションがやってくるとは思ってもみなかった。

 地方都市を中心に進出しているイオンモールのことだから、友達とイオンモールでたむろするのが今から思えば貴重な青春だった、という人もいるだろう。そういう思い出がある人にとってイオンモールは間違いなく、いい印象のものとして記憶に刻まれているはずだ。だから静馬レイ氏ほどではなくとも、イオンモールが好きだから○○する、という人間はこれからも現れると思う。どんな形であれ、イオンモールに何かしらの感情を抱き、イオンモールのために何かをしようと動く人間がい続ける限り、イオンモールは継承され続けてゆくのだろうと、私は思ったのだった。

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イオンモールを継承ぐ【つなぐ】 奈良ひさぎ @RyotoNara

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