第17話 小さな影

 あの日の約束から、数週間が経った。


 亮と真司は、毎日短くても必ずメッセージを交わしていた。


「おはよう」


「練習行ってくる」


「おやすみ」


 たったそれだけのやり取りでも、二人にとっては大切な儀式だった。


 しかし、夏が近づくにつれて、真司の返信時間が少しずつ遅くなっていった。


 レッスンや仕事の量が増え、夜も遅くまで拘束されることが多くなったからだ。


 亮は「忙しいのは分かってる」と自分に言い聞かせながらも、スマホを握りしめる時間が増えていった。


 ある夜、亮が送ったメッセージは、朝になっても既読がつかなかった。


 胸の奥に小さな不安が芽を出す。


(寝落ちしただけだろ…)


 そう思いながらも、その芽はゆっくりと広がっていく。


 一方、真司は東京の狭い部屋で、疲れ切った身体をベッドに沈めていた。


 画面の通知に気づく前に、深い眠りに落ちてしまったのだ。


 翌朝、既読をつけた瞬間、心の奥にチクリと罪悪感が走る。


(たった一晩…それでも亮は不安になるんだろうな)


 二人は会ったときのような笑顔を忘れてはいなかった。


 けれど、その笑顔の裏に、少しずつ見えない影が広がり始めていた。


 小さな影は、音もなく、しかし確実に二人の間に忍び寄っていた。



#BL


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