第16話 約束の重さ

 改札の外、早朝の冷たい風が二人を包んでいた。

抱きしめ合った後も、亮と真司はしばらく言葉を探せずにいた。


 先に口を開いたのは真司だった。

「……俺、怖かった。亮がいなくなるんじゃないかって」


 亮は少しだけ笑った。


「俺もだよ。遠くでお前が笑ってるのが、どうしようもなく怖かった」


 駅前のカフェに入り、温かいコーヒーを前に向かい合う。


 まだ互いの瞳には疲れの影が残っていたが、その奥に確かな光があった。


「正直さ、東京とこっちじゃ、これからもすれ違うと思う」


真司の声は低く、でも迷いはなかった。


「それでも……俺、お前と一緒にいたい。どんなに遠くても」


 亮はうつむき、ペンダントを指先でなぞる。


「……じゃあ、約束しよう。会えない日が続いても、ちゃんと声を届けるって」


「うん。たとえ一言でも」


 カップの湯気が二人の間に立ちのぼる。


 その温もりに似た安心感が、少しだけ胸の痛みを和らげた。


 外はまだ小雨が降っている。


 亮は窓越しにその景色を見ながら、心の奥でひとつだけ決めた。


 ――この距離を、理由にしない。


 それが、二人を守る唯一の方法だと信じたから。




#BL

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