第15話 走り出した理由

 あの夜から、亮と真司は三日間、連絡を取らなかった。

 メッセージを打っては消し、電話をかけては切る。

 画面の光は、二人の迷いを映し出すだけだった。


 亮は部屋の窓から、重たく垂れ込めた雲を見上げていた。

(このまま終わるのか……)

 そう考えた瞬間、胸がぐしゃぐしゃになった。

「……終わってたまるか」

 気づけば、亮はジャケットを羽織り、ペンダントを首にかけて外に飛び出していた。


 夜行バスのチケットをスマホで取る。

「会わなきゃ、もう全部ダメになる」

 それだけを信じて、亮は走った。

 街灯の光が、雨に滲んで足元をぼやかす。


 一方、真司も同じ夜、自分のスマホを見つめていた。

 亮の名前が表示されない時間が、胸を締めつける。

(このままじゃ……お互い壊れる)

 気づけば真司は、アラームをかけずに荷物を詰め始めていた。

 レッスンも予定も置き去りにして。


 翌朝、同じ駅の改札で、二人は偶然すれ違った。

 目が合った瞬間、息が止まる。

 言葉より先に、亮が真司を抱きしめた。

「……ごめん」

「俺も」

 それだけで、胸の奥の冷たい塊が少しずつ溶けていくのが分かった。


 列車の音が遠くで響く。

 二人はまだ何も解決していない。

 でも、この腕の中の温もりだけは、確かにここにあった。



#BL


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