第8話

まだまだ暗い時間に目覚める。濡れた布で顔を拭い、黒パンをもそもそと食む。

食べ終わった後もしばらくぼーっと暗闇を眺めながら思考にエンジンをかける。

「…よし」


少一時間位ぼーっとしてクリアになった思考を回転させる。

辺りはまだ暗い。今のうちにやれることをやっておこう。


ウィンチェスターM1912を手に取る。12ゲージ型のこの散弾銃で今日やることは、雉撃ちならぬフライングリゴリ撃ちだ。

昨日の感じを見るにフライングリゴリは基本単独行動の哨戒役だろう。

だからこそ、今日の内に出来るだけ数を減らしておけば、向こうの奇襲を防ぎつつこちらの奇襲を成功させやすくなるだろう。


翼と筋肉の発達を見るに、滞空は上下に揺れるタイプだろう。そしてあの軽量化だけを目指した薄い身体は弾が翼に一発でも当たれば重症になりうるだろう。そういう相手であればアサルトや単発式の銃火器より散弾の方がいいだろうという思惑があって今日の相棒はウィンチェスターに決めた。


ポンプアクションによるリロードの遅さという欠点も奴らの単独行動で欠点となりえない。


環境適応によりすでに服は夜間迷彩となっている。まぁ、視覚の鋭い奴らに効くかは未知数だが…。

周囲に警戒をくばりながら森を進んでいく。



バギャンッ…

また一匹を撃ち落とす。驚いたことに奴らは夜間は樹に止まって寝ていた。

まるで哨戒の意味を為していない。結構な距離を移動したが足音が聞こえないことからグリゴリ歩兵師団も居ないようだ。


つくづく疑問に思う。こいつらはなかなかにあべこべだ。

元々グリゴリは一家族で群れを成すとは聞いていたが、それを無理矢理集めたような、まさに烏合の衆という言葉がよく似合う集団だ。


統率者と管理者には、拠点を作るぐらいだから人間並み、またはそれ以上の知能があると見ていたのだが…考えすぎだったのだろうか?

…いやいや、強く見積もるのはいいが弱く見積もってはいけない。なろう系もそういう奴らが足を掬われている。


「Gyaaaa!!!!」

グシャッ…

朝日が昇るとともにグリゴリ達は目を覚ますようで、フライングリゴリも飛び回っている姿を見かけるようになった。

ただ、こいつらは本能的に戦うときに叫ぶようで気づかなかった個体も簡単に狩ることができた。


ウィンチェスターは想像通りの大活躍だ。

叫び声を聞いてその方向に引き金を引けば、ボトボトと墜ちる。

もちろん絶命しきれない個体もいるが、翼が撃ち抜かれた上に地上の生活を完全に捨てた手足のため、赤子の手を捻るがごとく縊ることができた。


最初のうちは森の外周を周って駆除しようとしていたが、あまりにも気が遠くなる作業だったがために、寝床周辺を徹底的に駆除する作戦に切り替えた。

…根性無しな訳ではない。本当に森が広いのだ。


今回はあくまでフライングリゴリを狩ることを目的としていたため、グリゴリ歩兵師団はひとまず無視していった。

基本的に昨日相対した師団と構成は一緒だったが、なかには一つ目の杖持ちグリゴリの姿も見受けた。…あれがグリゴリンなのだろうか?魔法を使ってくるとしたらどう対処するべきか?


そんなことを考えつつ、フライングリゴリを撃ち落としていく。


バギャンッ……バギャンッ……バギャンッ……バギャンッ……バギャンッ……


三十体位から数えるのをやめていたが、百体は撃った気が…する。

密度自体はそんなに高くないが、いかんせん歩き回るから遭遇しやすい。

もう日も傾き始めている。

一種類だけかつ特定の範囲だけでこれほどいるとなると、本格的に戦争じみたことになっていく予感しかない。


「…拠点爆破したら全滅してくれないかな…」

虚しい呟きが雪に吸われて溶けていく。

おそらくだが、拠点は少し大きな村ぐらいまで成長していると見ていいだろう。

弓兵もいるとなれば見張り台もあるだろうし、人類を見本とするなら兜が作れているなら城壁も作れているだろう。

そんな警備のなか、主要施設にC4を仕掛けて爆破するのはあまりにも夢物語だろうな。せいぜい城壁を破壊するぐらいが関の山だろう。

火薬庫などがあれば話は別だが、火薬庫があるということは爆弾が作れる軍事力ということであり、戦闘でこちらが負傷するのは避けられなくなるということ。


あまりにも先が長くなりそうなこの作戦に苦笑しつつ、乾パンを少しつまんで横になる。

…一日中歩いた疲れがドッと体に押し寄せ、瞼は重りのように重くなり、意識は沈んでいく。



~あとがき~

唐突ですがしばらく休止とさせていただきます。

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