魔法が科学に勝るはずがない!

人造人間 歯人

開戦



――世界の端が、割れた。


地球暦2297年。

日本・南硫黄島沖合、観測不能領域にて――“穴”が生まれた。

直径およそ2.4km、重力も、空気も、物理法則すら曖昧な、灰色の球体。

当初は天文学的現象とされたが、24時間後、内部から未知の粒子群が噴出。

そのエネルギーは核融合炉の出力を超え、瞬く間に世界中の電力網を汚染した。


「あれは“異界”だ。別の宇宙への裂け目だ。」


最初にそう言ったのはアメリカ統合物理庁のハワード博士だった。

世界各国は恐怖よりも、興奮した。

石油よりも、ウランよりも、莫大なエネルギーの匂いがしたからだ。


半年後。

国連は「ゲート侵入条約」を可決。

表向きは“調査目的”――実態は、征服遠征。


人類の軍勢は、正式名称異界開拓遠征軍

だが現地ではこう呼ばれることになる。


“侵略者(インヴェイダー)”。


彼らが初めて踏み入れた地は、

青空ではなく、常に紫がかった薄闇が支配する大地だった。

そしてそこに住む者たちは、角と牙を持ち、祈りで火を灯す種族――魔族。


「我々は神を持たぬ。だがこの世界は“魔”によって均衡している。」


そう語ったのは、魔王アゼル=ロウグ

古より魔の理を束ねる王にして、この世界の“心臓”とも呼ばれた存在。


だが人類の戦術は容赦がなかった。

レールキャノン、粒子加速砲、AI制御の魔力干渉兵――

魔法を“科学的ノイズ”として分解・無効化する兵器が投入された。


最初の戦闘は、わずか六時間。

アゼルの城下は焼かれ、五万の魔族が灰となった。

彼は炎の中で、兵の焦げた翼を抱えながらつぶやいた。


「我らは……滅ぶのか。」


空を見上げれば、三つの黒い人工衛星が軌道上に浮かび、

その中心には巨大な白いリング――**ゲート安定装置ヘリオス**が輝いていた。


それは神の輪にも見えた。

だがその“神”は、彼らを救うためではなく、焼き尽くすために存在していた。


夜、廃都の高台で、アゼルはひとり立つ。

月の代わりに、空を覆うのは白いゲートの光。

彼の隣で、側近の魔女ルナが問いかけた。


「陛下、どうか……逃げてください。このままでは……」


「逃げて、何処へ行く?」

「奴らは空をも支配した。地も海も、我らの魔法を拒む。」

「……それでも、生きねばなりません」


アゼルは短く息を吐き、振り向かずに答えた。


「生き延びることは恥ではない。だが、奪われ続けるだけの生は――もはや死だ。」


その言葉の直後、遠方で閃光が走る。

人類の第二次空爆だった。

風が焼け、世界が震えた。


アゼルの瞳に、光が宿る。


「ならば奪い返そう。“理”そのものを。」


──異界資源戦線、開戦。

奪う者と奪われる者の境界が、静かに崩れ始めた。

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