早とちり
オフィスレディーは、和製英語である。かつて、働く女性はBG(ビジネスガールの略)といったことばで総称されていたが、一般的な女性事務職はOL(オーエル)と表されるようになった。
仕事内容は職場により任される範囲が異なるが、とくべつな資格や学歴は問われず、未経験でも求人に応募して採用となれば、OLとして働くことができる。対人関係能力やパソコンスキルのない
会社の休憩時間、更衣室のロッカーに寄りかかって美容院やエステサロンの相場を調べる桃瀬は、急激に
「わたしってば、なにやってるんだろう……」
石和はずっと
「行くの、やめようかな」
無理して逢おうとしなくても、相手は同じアパートに住んでいる。たまに見かけて胸をときめかせるくらいの関係が、望ましいのかもしれない。携帯電話をバッグに押しこむと、横目で画面をのぞきみた同僚から、クスクス笑われた。
市販薬や化粧品を使ってケアしても、生まれながらの特徴は隠しきれない。まぶたを
悩んだ末、ウエストリボン付きのワンピースを身につけてタクシーを呼ぶ桃瀬は、石和の
「いらっしゃいませ、こんばんは! ……あれ、
店にはいるなり、ギャルソンの
「ようこそ。おひとりさま? きょうは石和さんの日じゃないよ。あのひとの担当は水曜日だって、
「ちがうんです」
「ちがう?」
「わたしは、レッドサンズにごはんを食べに来ました。お酒は、その、二日酔いで……、しばらく控えようかなって……」
うつむきかげんで会話する桃瀬に、圷は「ぷっ」と小さく吹いた。失礼な接客態度ではあるが、桃瀬を窓ぎわのテーブル席へ案内した。
「メニューは日替わりとかないから、定番から選んでくれよな。あと、このあいだのクーポン券、使えるのはドリンクだけになってるけど、会計はおれがするし、好きなものを遠慮せずに食べていいぜ」
「そんなことをして、
「怒る? 誰が? ここ、おれン
「ええ!?」
桃瀬は思わず大きな声をあげてしまい、あわてて両手で口を
「そうなんだ。えっと、が、がんばってください……」
気のきいた
「やっぱり、帰ります」
調子づいて、こなければよかった。桃瀬は「ごめんなさい!」といって、まだそこにいた圷の脇をすり抜けた。よけいな感情を認めたくない。いまなら、ひき返せる。店の外にでると、雨がふりだしていた。傘を持っていないため、アパートまで冷たい雨にぬれて歩き、一時間かけて帰宅した。
✦つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます