チャレンジ
週末の夜、アパートの部屋でのんびり過ごす桃瀬は、壁にハンガーで吊るしてあるウエストリボン付きのワンピースを見つめた。石和の長い指が、しなやかに動いてカクテルを作るようすを思いだすたび、鼓動が速くなる。
「いまごろ、なにしてるのかなぁ」
これまで、
「ハイビスカスのビタミンティー、また飲みたいな。カクテルって、あんなにおいしかったんだ。……そうだ! わたし、じぶんでお酒を買える年齢になったんだ!」
さっそく、財布を持って近所のコンビニへ向かった。適当な缶ビール三本と、おつまみ用のミックスナッツとチーズを購入する。レジへ持っていくときちょっとドキドキしたが、年齢は確認されなかった。あすは休日につき、夜更かしもできるし、人生初のひとり酒である。石和によってアルコールを解禁した桃瀬は、何事もチャレンジだと思った。……水曜の晩については、いくら招待されたからとはいえ、かなり積極的に行動したほうである。
「理乃ちゃん、こんばんは」
「い、石和さん!」
コンビニ袋を片手に帰宅すると、アパートの駐車場で石和と鉢合わせた。相手は、よく見かけるスーツ姿である。いっぽう、さくらんぼ柄のルームウェアにスニーカーという
「どうかしたのかい」
「ひぇっ? べつになにも……!」
不自然な動きが裏目にでたらしく、石和が歩み寄ってくる。顔をのぞきこまれそうになった桃瀬は、「このあいだは、ごちそうさまでした。また、セブンスターに行きます!」と、勢いあまって口にすると、急ぎ足で外階段を駆けのぼった。……「あの子、処女っすね」という
「ぼくに逢いたいのか、それとも避けたいのか、よくわからない子だな」
そこまで親しくない男を部屋へ泊めたかと思えば、
石和と遭遇して冷や汗をかいた桃瀬は、シャワーを浴びてから缶ビールのプルタブをあけた。最初は
「うぅ~っ、な、なにこれぇ、頭が痛い、ガンガンして割れそう……。これが、二日酔いの症状なの……?」
よろよろと起きあがり、洗面所で顔を洗うと、脱いだ服を洗濯機へ放りこんだ。りんごを半分に切って乗せたような小さな胸が
「あさっての夜、食べにいってみようかな。レッドサンズのメニューも、ちょっと気になるし……」
せっかくなら水曜日がいい。容姿や年齢を考えたとき、石和とは良好な交流が望ましい立場だが、桃瀬の平凡な日常は、思いがけない方向へと変化してゆく──。
✦つづく
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