私はロシデレが嫌いだ。とある混血系日本人からみた創作物の外国人像の構造的差別への嫌悪感

万和彁了

だから私はロシデレが嫌いだ

 私は父が日本人で母がブラジル人の間に生まれた混血児である。



 昨今はハーフだのダブルだのと言われている存在だ。だがはっきり言うとハーフもダブルも私からはまったくポジティブなニュアンスを覚えない言葉である。正直に言えば気軽に使われるたびに心に少しずつ傷がついていく。そんなナイフのような言葉だ。


 それは簡単な理由で共同体の内側に入れないための言葉だからだ。私は日本語を話し、日本に帰属意識を持ちながらも日本社会からこれらの言葉で弾かれた存在だ。


 あまりこれらの話題がフォーカスされることはない。まあ法的にはフルスペックの権利が私にも保障されているので、特段生活に問題など覚えたことはない。権利問題は話の話題にならない。少なくとも構造的差別を受けたことはない。日本社会は先進国の中でも極めてフェアにできてるとさえ思う。


 だからあくまでも文化の話になるのだ。私自身は自身のバックグラウンドを話すことが嫌いだ。だがよく聞かれる。そのたびにうんざりしている。そういうのを聞いてこない人にはとても嬉しさを覚える。なにも新手のハラスメントを視聴しようなどとは思わない。それは違う。法的配慮も求めない。ただ他の日本人相手なら踏みこまないような門地や人種の話をして欲しくない。ただそれだけだ。










 話は変わる。私たちは、少なくとも私は、外国系であることを普段は可能な限り伏せて生きている。大きめの眼鏡を使って顔貌を誤魔化して人種的特徴をぼやかして他人に接するなどの工夫をしている。放っておかれたいからだ。まあそれは私の問題だ。だが時に嫌なものが目に止まることはある。









 先に行っておこう。私は表現の自由の尊重を何よりも重視している。昨今のポリティカルコレクトネスによる作品意図の捻じ曲げなどは論外だと思っている。だから他人が仮にもなにか顰蹙を買うような作品を発表したとしてもそれは発表する自由があり何らかの運動などで妨げられることはあってはならないんだと固く信じる。








 だけど批評する自由もあるよね?








 なのである。















 批評する自由もある。そこにはつまらない、面白くない、そう言ったネガティブな情報があってもいい。それは自由だ。表現の自由だ。だから最大限にそれらが機能する社会こそが健全なのだと思うし、そうでなくてはいけない。何度も言うが、発表の自由を妨げる意見運動。「これは好ましかざる表現だ!」などという意見は決して用いられるべきではない。











 だけど批評の自由はある。あるんだよ。








 だから本題に入ろうと思う。私はこれからとある作品をけちょんけちょんに批判する。だけど発表するべきではない。などという意見だけは持たないし、その作品の発表の自由はあるという前提で話をさせていただきたい。いいね?











 では本題に今度こそ入ろう。私はとある作品が超大嫌いだ。滅茶苦茶嫌いだ。もう目に入れたくないくらい嫌い。動画配信サイトでお勧めに上がってきた瞬間にブラウザ閉じるくらい嫌い。


 まず私が感情的な面で「嫌い」だよという前提を置いてほしい。







 その作者と実は謝恩会ですれ違ったのだが、その時にすごく感情が苛立った。よくもそこで口汚く罵らなかったと思う。それはいけない。それくらい嫌いなのだ。だけど批判はしておきたい。それはこの批評を通じてわたしたちマイノリティの気持ちを少しでも知ってほしいという意図があるからだ。評論分というものは感情が先にあってあとから屁理屈をこねるのが仕事である。


 本来の批評分であれば作者は感情を隠して、あたかも正義を語っているように話すが、そういうのは私のプライドに反する。この先の批評は感情が先にあって屁理屈をこねているだけだと介して欲しい。売れてるから嫉妬してるんやろって意見を持ってもらってもいい。










 やっと本論に入れるか。





 わたしが嫌いな作品について話そう。





「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」





 である。お前、そんなビックタイトルに喧嘩売るんか!みたいな思った人はまあその通りだと思う。だけど私はもうKADOKAWAとは仕事する気がないので、忖度する気もない。先に行ったと思うが感情論の問題なのだ。







 さてこの作品何が嫌いか?というところから始める。そしてなぜ批評という名の、批判をしなければならないのか。それは冒頭で伏線を張ってあるように私が混血児だからなのだ。



 はっきり言おう。この作品のギミックである「ヒロインのロシア語を主人公は理解しているが、それをヒロインは知らない」という点に最大の嫌悪を覚えるのだ。




 この状況、日本人に例えればわかるだろう。留学先で必死に英語でしゃべってる。頼れる友人が出来た。油断しているときに日本語が出た。相手には伝わっていない。ほっとする。だけど相手が実は日本語知ってたら?




 キレ散らかすに決まってるだろ。




 むしろこの構造、無邪気な人種差別を含んでいるといってもいい。民族差別という言葉でもいいだろう。日本に来ている外国人がこちらに対して拙い日本語で喋っているとして、それに対してからかいやあざけりがあったらどう思うか?それははっきり言って非難されてしかるべきだろう。そんなことをする人間がいたら軽蔑に値する。



 ロシデレはこの構造を巧みに利用している。作者はおそらくは自覚的ではないと思うし、読者も自覚していない。だけどはっきりと見えるのだ。うっすらとした外国人差別の構造が。なぜ主人公は自分がロシア語を解することを伝えないのか?そりゃ作品のギミックが壊れるからだ。だけど主人公はヒロインを延々と共同体の外側に追いやり続けているのだ。わからないふりをして本心を聞き出しているという点ではむしろ悪質と言ってもいい。私がこれされてもし何かの拍子ではっかくしたら相手を死ぬまで軽蔑し続ける。それくらいこの構造は残酷なのだ。




 このロシデレギミックは評論家に絶賛されているが、どう考えても差別の構造を内包しているという点でヒロインと同じ混血系日本人の私にはなんとも言えない薄気味悪さを感じてしまうのだ。ああ、他の日本人には所詮ガイジンの血が入ったやつは外側の人間でしかないんだな。共同体に入れる気がないんだなと絶望的な気持ちにさえなる。



 読まなきゃいい。もちろんそうである。だけどその構造が差別的だよと指摘する自由はあると思う。



 作者はインタビューで


”燦々SUN先生:ロシア語女子というかロシアン女子になってしまいますが、やはりロシアの美少女は妖精的な美しさが魅力ですね。テレビとかで見るロシア人女性は、肌の白さも相まって他にはない神秘的な美しさがあると思います。


ロシア語の魅力は、柔らかい響きでしょうか。ロシア人女性が話しているのを聞くと、なんだか可愛らしい印象を受けるんですよね。”

(引用:https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=%201625796013&p=2)




 と言ってるのだが、言っちゃ悪いけど、白人崇拝かなにかか?レーベンスボルンとか知ってるか?みたいな意見が出てくるのを正直に言って覚える他なかったのだ。




 それにおそらくだが作者はロシア文化も歴史も知らない。尊重していないと断じてもいいと思う。




 ロシデレは調べた限り、2020年から連載が小説家になろうで掲載されたようである。なおロシアのクリミア併合は2014年に起きている。妖精どころかおそろしい侵略国家だという事実があったのにも関わらずである。なにも知らずに書いている。そこには丁寧さというものが残念ながらない。他文化への尊重がないのだ。夢想の中の”妖精の国ロシア”だけしか知らないのだ。のちにウクライナ戦争が勃発したことも拍車をかける。あの戦争の結果、ロシデレはロシアにとって出来の悪い、なによりもグロテスクなプロパガンダに成り下がってしまった。そういう概念がへばりついてしまった。もうそういう色眼鏡なしに見ることは叶わなくなった。ある意味では自業自得だったのだ。




 あまり他人の表現に口を挟めば自分に返ってくる。だから批評は避けるべきだし、クリエイターなら自分の作品だけ集中するべきだろう。だけど日本のライトノベル、漫画などにおける外国の扱いはどこか”他文化の尊重”という視点に欠けているのではないか?という問いが頭の中をぐるぐるし続けている。当事者たちを置き去りにして夢想を描くのは構わない。それは表現の自由だ。だけど私のような人間に嫌味を言われるくらいの覚悟は持ってほしい。






 我々は他者との共生を強制されるという社会の中でどうしたって生きなければならない。ならばせめて尊厳と尊重をするという態度が求められる。そう主張して本評論を終えようと思う。

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私はロシデレが嫌いだ。とある混血系日本人からみた創作物の外国人像の構造的差別への嫌悪感 万和彁了 @muteki_succubus

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