雪の終わりに君を想う
すみす
第1話
雪の森を照らす、ひとつの灯。
青年・灯(あかり)は、壊れた教会で毎晩ランタンを灯していた。
その光を追うように、雪の精霊は現れる。
「また来たのね」
「君に会える気がして」
ふたりは少しずつ言葉を交わし、やがて心を寄せ合った。
精霊は、触れれば溶けてしまうほど儚い存在。
それでも灯は、手を伸ばした。
「君の手を、温めたい」
「だめよ、私に触れたら……あなたの命が削れる」
けれど灯は微笑んだ。
「かまわない。雪の季節が終わるまででいい」
その言葉に、精霊の胸が軋んだ。
初めて、恋という痛みを知った。
やがて春が近づく。
雪がやみ、太陽が山を照らしたその朝――
灯は教会の前で、静かに倒れていた。
彼の手には、まだ温もりが残っていた。
その指の間から、光の粒がこぼれる。
精霊の涙が落ちた瞬間、それは雪になり、世界を覆った。
「……ありがとう。あなたの春を、少しだけ奪ってしまったね」
彼女は微笑み、姿を消した。
それからというもの、春になってもその村には雪が降る。
白く静かな雪が舞うたび、人々はこう語る。
――「あれは、雪の精霊が恋をした証」だと。
雪の終わりに君を想う すみす @shait
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