第十八章
週間〇〇社ではSNS上での炎上に自社記事の影響が無力になる瞬間を見ていた。
「くそ、竜胆め! 小賢しい真似を!」
小太りの出目川はRND公式youtubeチャンネルを見ながらパソコン画面をへし折るような勢いで画面を握っている。
『僕たち幻想協奏楽団fの事を応援して頂きありがとうございます。これから、僕たちのメンバー悠の事についてお話がありますので、どうかファンの方、関係者の方はそのままお聞きください。じゃあ、悠お願い』
リーダーのアリスが普段の額や撮影ではなく、事務所のメディア用のロゴがある背景で冒頭の挨拶をしている。その事から真面目な動画だと誰もがわかる。
「現在、某週刊誌にて僕、悠の恋愛記事が出る予定になっています。気づいている方もいらっしゃるかと思いますが、僕、悠は恋愛対象が男性で容姿が女の子のいわゆる男の娘として活躍しています。僕は女の子に憧れながらこういった姿をしています。そんな僕を彼は好きだと言って付き合ってくれました。アイドルになってから、渋谷の近くでバイトして、仕事が終わったら一緒に帰ってくれるんです。そんな所を写真に撮られました。アイドルが男と付き合っていいのかと。そんな脅迫文を立派な会社が送ることに恐怖しています。僕だけなら良いんです。でも、彼は一般人です。少なからず彼にも迷惑を掛けるし、きっと嫌な目にも遭います。でも、普通の恋愛として彼は僕と接していて、僕がアイドルになったからと言って、僕の不注意で彼に迷惑を掛けるのは本意ではありません———」
悠はそこで言葉を切る。次の言葉はきっと彼氏と別れるだろうと予想する人は多いだろう。でも、悠の言葉は違った。
『メンバーのみんながNSNで恋愛事情を話すようにアイドルにだって恋愛する権利があると思います。それでファンが減ってしまうのは仕方ないとは思いますが、令和になってまで古い価値観をアイドルに押し付けるのは変だと思います。その一石を投じるのと彼を守るためと僕ら以外のアイドルの人権を守るために、週間〇〇社を名誉棄損と今回の脅迫を含めた脅迫罪の両面をもって民事刑事両面で事務所代表竜胆社長と共に告訴することといたしました。つきましては今後の裁判の兼ね合いもあり、新たな報告は弁護士と共に相談しながらの報告となりますことをご容赦いただきますようお願い申し上げます。最後にファンのみんなへ、心配させてごめんなさい。こんな僕の事で不安にさせてごめんね。嫌いになってもいいから、メンバーの事は嫌いにならないでね』
そう、泣きながら言う悠にアリスは寄り添う。近くに控えていただろうほかのメンバーも悠の涙をぬぐいながら慰める。そこで動画は止まったがコメント欄は好意的な反応が多かった。
『悠泣かないで』
『彼氏いたことにはびっくりだけど、それでも幻想協奏楽団を応援しているからね』
『嫌わないよずっと大好き!愛してる!』
『メンバーが悠の事慰めている良い!』
『応援してます!』
『大好き!泣かないで!』
『週刊誌サイテー』
『死ね週刊誌』
後半は週刊誌へのヘイトだった。その直後! 会社の電話が鳴った。
「はい」
『死ねボケ週刊誌! プチッ、ツーツーツー』
また電話が鳴った。
『殺す』
また鳴る。
『悠が可哀想だと思わないの? 会社としてそれがいいと思っているの』
『てめぇぜっていころす』
FAXでも同様の内容が送られ、なかには理性的な批判やクレームもあった。
出目川は対応しきれず電話線を抜いた。
「ふぅ……」
「大変な事になったな」
小さな出版社の社長、橘が入ってきた。龍が如くの風間組長のようないでたちの方だ。デスノートのさくらテレビのような出目川は社長にお辞儀する。
「すいません俺の不手際で」
「いや良いんだ。すまんかったな」
橘はソファに座る。出目川は社長にタバコの火をやると葉巻を静かに吸った。
「今朝、警察が来るそうだ。俺の携帯に情報が入った。逃げるなよと念を押されたよ」
外を見ると警察と思われる車両が停まっている。
「令状持ってきたな」
橘が言う。
すぐに事務所がノックされた。橘は何も言わない。だが警察は入ってきた。
「橘司(たちばなつかさ)と出目川悟(でめがわさとる)だな。脅迫罪の疑いで捜査令状が出ている。ご同行願おうか」
やってきた警察は明らかな刑事事件担当の本職警官だ。つまり犯罪取り締まり専門の警察としての本分を持った警察。治安維持組織としての大本命部署の警察だ。
「ええ、応じます」
橘はゆっくり杖を突き応じた。任意同行ではない。拒否はできない。
テレビ取材で会社前が報道された。
『週間〇〇が脅迫文を送ったとして社長と社員の出目川が警察署に送られました。まだ逮捕状請求はされないとのことですが取り調べの結果次第では家宅捜索も実施され、逮捕の可能性もあるとのことです。週間〇〇では強引な取材をすることで有名でこれまでも何度か訴訟問題になっておりますが、今回のように刑事事件としての捜査は異例中の異例です。現場からは以上です』
『ええ、スタジオに戻ります。先ほどRNDエンターテイメントから竜胆社長の記者会見が送られました。映像を切り替えます』
『皆様、朝からお越しいただき誠にありがとうございます。RNDエンターテイメント社長竜胆英二(りんどうえいじ)です。この度、弊社所属タレント悠の恋愛事情について世間の皆様をお騒がせしたことを心よりお詫び申し上げますと共に弊社所属タレントへの脅迫文送付について、重く受け止め、警察に被害届及び名誉棄損として民事刑事両面での訴訟へと踏み切ることとなりました。ええ、弊社といたしましては、悠の人権、そしてお相手の方への人権を尊重し、事務所として守る決意の表れとしての訴訟となりますことをこのあと、ご質問を交えながらお答えしたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします』
竜胆社長はそう記者会見で話していた。
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