第十四章
幻想協奏楽団f。それが僕らのアイドルユニット名だった。短くしてネオン。7人のグループとしてスタートしたネオンは最初渋谷の地下ステージで小さくお披露目するようになった。アイドルの最初なんてこんなものだ。誰一人いないステージで歌う事もあるし、オーナーに色物として呼ばれるだけならまだ良い方で、枕営業を求められることだってあるらしい、それを断ったら次は呼ばないぞって脅されることもある。でも、枕をしたからと言って売れることもない。良いように安い仕事当てられるか、仕事くれるって建前で全然仕事くれなのに身体だけ求められて捨てられることもある。だからマネージャーに念を押された。枕誘われても断るようにって。絶対ひとりで仕事取らないようにって言われた。一度枕をしたアイドルはそのあと一生食い物にされる。メンズでもそう。枕なんかしたら一生後悔する。
好きでもない人と寝たらそれを脅しに弱みにつけいれられる。「あの子と寝たよね」そう言って次を求められて、ビジネスホテルだと嘘つかれてラブホに連れ込まれて、帰りたかったらセックスしなさいって言われることもある。泣いても解放されないし、むしろ興奮される世界だってある。だから泣かない方がいい。精神をこれでもかと蝕まれる世界でもあるけど、闇と同時に光がすっごく眩しい世界でもある。だからみんな憧れるし、焦れる世界でもある。
事前にチケットはほぼ完売だった。
二部制、昼夜で開催され。収容人数百の小さな箱に大勢のファンが来てくれた。
舞台袖で一部から公演前の様子を心配して眺めていたけど、多くのファンが来てくれて本当に嬉しかった。事務所推しが多いのかもしれないけど、けど、それでも皆、インスタやtiktok配信で告知頑張ったし、新規のユーザー獲得に奔走した。その中で何人来てくれているのか把握しきれないけど、SNS戦略は功を奏した。一部は八割が埋まって、二部も九割が埋まった。それが本当に嬉しかった。泣きそうなくらいに嬉しかった。
『みなさーーーーん、今日は来てくれてありがとーーーー幻想協奏楽団fのアリスです! 今日は盛り上がっていきましょう!』
リーダーのアリスが場を盛り上げる。ファンから歓声が上がった。アリスの女の子のような見た目がすでにファンを得ていた。次に出たのは僕だ。
『はーい、皆さん、今日は来てくれて本当にありがとう。精一杯愛しちゃうぞ』
僕にも歓声をくれたみんな優し。
『今日は来てくれてありがとう、なつきです。今日もバイクできたよ』
元地上アイドルなだけあってなつきへの歓声が一番大きかった。
『皆さん今日は来てくれてありがとう、ハスキーボイスのお姉さん、ハイリです』
元配信者のピンク髪のハイリも歓声が上がる。みんなこのピンクの長髪お姉さんがメンズだってギャップが好きだ。
『はーい、水色の悠です。今日は楽しみましょうかー』
地雷系メイクの悠が挑発的に笑みを浮かべる。
『今日は来てくれてありがとう、なつきです。今日は楽しみましょう』
甘々王子様系可愛いなつきが悩殺する。
『はい、今日は楽しもう。綾香です』
イケメン女子風メンズの綾香が言う。
『今日は来てくれてありがとー、ハヤトです』
元、バイクサークル出身のハヤトが最後だ。この中で一番アイドル志望だった子だ。
『では聞いてください! ストレーキッズ』
訳アリの子が多いメンズ地下アイドルグループ、親のネグレクト、不良、ジェンダーレス問題で不登校、いじめ、色々悩みを抱えるメンバーだからこそファンの悩みも聞ける。それは強みかもしれない。
初公演は大成功だった。
チケットは完売しなかったけど一枚500円チェキ会やアイドルひとりひとりのサイン入りCDやほっぺ限定だけどキスサービスが結構好評だった。あ、一応1000円のキスね。アイドルが無料でするわけないじゃん。その結果、グッズは完売だった。まだメンバーさ新入りアクキーとCDとメンバーTシャツしかないけど、これからもどんどん増やしたいし、もっとファンが欲しい。
一番人気はリーダーのアリスと悠だった。女の子に人気だった。
「悠、お疲れ様」
「叶………」
アイドルに彼氏が居ることを知られる訳にはいかない。絶対秘密にしないといけない。叶の為にも。
「とっても良かったよ」
そう言って悠のCDを出す。それに悠はサインをする。
「ありがとう、お名前は?」
「叶です」
「叶君ねわかった」
知ってる。あくまで叶もいちファンとして扱わないといけない。それがチクりと痛んだ。
「また来るよ」
「うん、ぜひ来てね」
そう言って叶の手に握手する。
叶の背中を悠は見送る。
恋人なのに多淫行儀にしないといけないのが辛かった。
「次の方―」
スタッフさんがファンを誘導する。
「悠君! Tiktokから大好きです! キスして!」
「いいよ、ほっぺ出して」
悠はほっぺにキスする。
ファンにキスするのは大好きだ。でも、本当にキスしたい相手とは今日は出来なかった。
その様子を隣でアリスは心配そうに眺めていた。
その日のSNSで———。
『ねぇ、実際に会った悠君、結構よくなかった?』
『わかる、笑顔で可愛いのに地雷系でピアス可愛くて、なんか哀愁漂ってた』
『わかる! アリスとの絡みだと明るい子なのかなって思ったけど、ちょっとクールだったし、唇にピアスしてたのも可愛い』
『ピアス系男子推せる!』
『私はやっぱりなつきが好きかな、前世でもファンだったし』
前世とはなつきが地上はアイドルだった頃を指している。
『ハイリお姉さまも良いよねー』
『わかるー、てかあれで全員メンズとか萌える』
盛り上がるSNSちゃっと、その別グループでもメンズファンが密に盛り上がっていた。
《悠推しにしようかなって思ってる》
《俺アリス悠推しかな》
《やっぱ、ハイリだろ》
《やっぱメンズって男の娘好きだよな》
《え、俺綾香》
《俺はなつき》
《おっと、BLですか?》
《いや、全員メンズやねん》
《———忘れてた》(一同)
メンズファンはその頃新しい扉を開けそうになった。
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