第十四話 正義戦隊、全員集合!
今日も仕事終わり、スーパーの袋をぶら下げながら駅前を歩いていた。中身は半額シールの唐揚げと、見切り品のキャベツ。俺の夕飯の定番だ。
駅前はこれから帰るのであろう学生や、スーツ姿の大人と、夕飯の買い出しに来た人たちで少しにぎわっている。
「よし、今日は唐揚げ丼にでもするか……」
なんて小さな幸せを噛みしめていたら、急に耳の奥に響くような轟音が鳴り響いた。ビルの向こうから煙が上がり、ガラスが割れる音、逃げ惑う人々の悲鳴。
お約束すぎて逆に落ち着く。ああ、まただな、と。
現れたのは、タキシード姿というか執事というのか。頭に箱型の時計をかぶったように見える姿勢正しい怪人っぽくない怪人だった。
「我の名はクロノス、 この世界の時間を支配する者です。手始めにあなた方の時間を私の支配で恐怖に染めて差し上げましょう」
そういうや否や、怪人は何もしていないのに街路樹は吹き飛ぶし、横断歩道の信号機はへし折れるし、周りの人は悲鳴をあげながら走って逃げだした。
「なんだ?何が起こってるんだ?」
考えるよりも俺も逃げなきゃいけないんだけど――もう脳が勝手に悟っている。どうせこの後、ヒーロー達がやってくるんだ。
案の定。
「烈火一閃――変身!」
「解析開始。最適化――変身モード、起動!」
「正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」
「笑いも涙もひっくるめて――変身ドーン!」
「老骨に鞭打ち――変身じゃあ!」
五人揃って一斉に変身。それぞれの色の光と、赤は炎を纏い・青は水流が周囲に舞い・黄は雷が身を包み・緑は足元から肩のあたりまで木々が生い茂り・黒は黒い風を身にまとう。それらすべてが光って消えたかと思うとそこには変身した彼らがいた。俺は思わず鳥肌が立った。
「おぉ~.....」
思わず感嘆の声が漏れる。子供のころからの憧れだった、いつもテレビで見ていた戦隊ヒーローが、いま目の前で同じことをやってる。すげえ、やっぱかっこいい。
でも…
……いやいやいや。自分が人前でポーズ決めて名乗りとか……無理無理。死ぬほど恥ずかしい。
感動と同時に、変な冷や汗が出る。俺がやったら絶対周囲から一生ネタにされる。
赤が烈火刀を抜き放ち、青がランスを構え、黄が銃をクルクル回して、緑がトンファーをガチャーンと鳴らし、黒が渋い槍をドンと地面に突き立てる。なんでか青と黒の武器がかぶってるんだよな。見た目的には青は未来の槍、黒は戦国時代の槍って感じだ。
よし、わかりやすく青はランス、黒は槍と呼ぼう。
そして――五人揃って大きく叫ぶ。
「正義戦隊――ジャスティファイブ!!」
歓声が周囲から上がる。あの名前って誰が考えたんだろう?神様かな?
しかし、俺も一瞬「うおお……!」って叫びそうになったが、グッと堪えた。いや、ほんとカッコいいんだけど、やっぱ恥ずかしい。俺の中の少年心と大人の理性が大ゲンカしてる。
直後、五人が仕掛ける。
赤の剣が炎を撒き散らし、青のランスが光の軌跡を描き、黄の銃弾が閃光を生む。緑は相変わらず「ポカーン!」とか「ピコーン!」とかふざけた効果音を撒き散らしながら敵を殴り、黒は渋く一突きで押し返す。
でも、敵は静かに耐えるだけ。効いているようにはなぜか感じられない。
「クククク.....我が時間の牢獄からは誰も逃げられません」
ぼそっとつぶやいたと同時に、空気がグニャッと歪んだ。視界がスローモーションみたいに遅くなる。
赤が必死に刀を振ろうとするけど、まるで動画のスローモーションみたいな動き。青も黄も緑も黒も、声は出てるけどスローすぎて聞き取れない。
町の人たちも避難途中で動きが止まってる。だが....
なぜだろう、俺だけ普通に動ける。怪人がミスったか?
「……ん?」
辺りを見回して楽しんでいた怪人が、俺を見て固まる。
「あなた……なぜ普通に動けるのですか?」
「いや、なんでって言われても。俺が聞きたいんだけど」
「この私の時間停止の檻の中で……なぜだ……?」
「知らねえよ。なんかミスったとかじゃないのか?」
一瞬、沈黙。
ヒーロー達はスローで何しようとしてるかわからんし、怪人と俺だけが普通の速度で向かい合ってる。
「……お前、何者だ?」
「ただの買い物帰りの三十五歳です」
「いや絶対嘘だろ!」
もうなんなんだよ、この状況。
怪人が困惑してる間に、俺の中で妙な感情が芽生えてきた。
……見た目も普通だし、殴れるんじゃね?
目の前で赤が必死に刀を振ろうとしてるのに、スローモーションで全然届かないの見てたら……なんかイライラしてきた。
「……ええい、ままよ!」
ダッシュで近づき、思い切って拳を振り抜いてみる。あの顔の箱殴ったら痛そうだから....腹にでもしておこう。
ドガッ!
「うぇryつjgふぃ:さぎd!」
怪人が腹を抑えながら数メートル吹っ飛ぶ。え、マジで!?
その瞬間、空気の歪みがパァンと弾けて、時間の流れが元に戻った。
ヒーロー達が一瞬驚愕して俺を見るがこの好機を逃す手はない。
怪人がヨロヨロ立ち上がったところで、赤が叫ぶ。
「今だ!行くぞ!」
五人がそれぞれ武器を構え、必殺技を放つ。
「烈火一刀両断!」
「フロスト・ピアース!」
「フルバースト・ジャスティス!」
「笑撃インパクト!」
「玄武突!」
五色の光が一点に収束して、怪人を飲み込んだ。
「ぐあああああっ!!」
小規模の爆発とともに怪人の叫び声が聞こえる。この爆発の被害もそこそこ大きいのではとか考えるが、うん、やめておこう。
被害と言えば戦隊モノあるあるの巨大ロボなんかは町を破壊しまくってるよな。
煙と光の中で、ジャスティファイブの五人が立っている後ろ姿を眺めながらそんなことを考える。
観衆から大きな拍手と歓声があがる。
その中で俺は、買い物袋を抱えたまま、呆然と立ち尽くしていた。
「……ま。役に立てたなら良かったか」
心の中で、ツッコミが空しく響いた。
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