第二王妃2

※性的なニュアンスを含むシーンあり(R15相当)


 





 ワーズウェントの王子に王子妃を引き渡したブレイグの王弟は、地下通路を抜け、地上に上がった。 

 近くには馬が繋がれていた。おそらく王子の馬だろう。

 ふと思いつき、ワーズウェントの王子あてに待ち合わせ場所のメモを記し、馬の手綱に結んだ。

 王弟の馬はもう少し離れたところに繋いでいたのでそこまで向かい、馬を走らせた。


 各軍には王が崩御した事と全面降伏し、投降するよう早急に伝えなければならない。


 王弟が王都を守る陣営についた頃には夜が明けかけていた。


 すぐ幹部に取り次ぐよう伝えたが王弟は表立つことが殆どなく、一部の幹部にしか顔を知られていない。


 王弟の証である腹部の焼印の紋章により、ようやく幹部との会合を持つことができた。


 ほとんどの者は戦いから解放される事に安堵していた。


 一部の幹部は自らの保身を訴え、戦争責任について問うたが、責任は王弟がとると明言し、血判状を添えて納得させた。


 各地への伝令を手配し、王弟は自分の所属する自警団に向かった頃には日が暮れかけていた。


 今まで気が張っていたせいか眠気は殆ど感じなかったが、どっと疲れが襲ってきた。


 王弟は仮眠室のベッドに倒れるように眠った。






 目を覚ますとすでに日が高くなっていた。


 自分の首を差し出すまであと4日…いや、3日と少ししかない。


 ひとまず湯を使い汗臭い身体を清める。


 そして携帯食を食べるとようやくひと心地つけた。


 何かやり残した事は無いかと考えたとき、王妃たちの進退が浮かんだ。


 ワーズウェントの王子は恐らく王妃たちに危害を加えることは無いだろう…と信じたい。


 第三王妃は大変気位が高かったが、王の仕打ちに精神を病み、領地に帰っている。


 第四王妃は召し上げられたばかりで顔も知らなかった。だから…あんな取り返しのつかない事になったのだ。


 第二王妃は……今は離宮にいるはずだ。


 親しくしていた第二王妃だけは最後に顔を見たいと思った。


 不能の兄王にかわり、王弟が王妃たちを抱いていたが、王妃たちはその事実を知らない。


 第二王妃はニ度も流産し、最近は王の夜伽に呼ばれることが少なかった。


 自警団にも全面降伏の通達が届いたため、もう自分が、ここで出来ることもない。


 あとは住んでいた家の整理ぐらいだろうがそんなものはしなくても特に問題はない。


 会いたい。


 そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。


 王弟は離宮へ向かった。






「ロバート!?あなたがここに来てくれるなんて、いったいどうしたの!?」




 王弟は離宮を訪問すると、下働きの者たちにも王の崩御と全面降伏する事を伝えてから、第二王妃、リーザの部屋へ向かった。


 昼に会うのは三か月ぶりだろうか?


 第二王妃は流産後、離宮で療養していることが多かった。




「リーザ…もうすぐワーズウェント軍が来る。兄上は死んだ。俺は、最後の王族として責任を取るつもりだ。別れの、挨拶に来た」




 リーザは驚きに目を見開き息をのんだ。暫し絶句していたが、口を手で覆い言葉を紡ぐ。




「そんな…あなたはどうなるの…?今まで王族らしい仕事なんて何もしてなかったのに、どうしてあなたが責任を取らないといけないの?それなら王妃の私の方が責任が重いはずよ…。それに、王が、亡くなった?」




 リーザは真っ先にロバートの心配をしてくれた。


 伴侶のはずの王の死より…。


 不謹慎だが、何だか嬉しかった。




「リーザ、俺は今まで傍観者で王族の務めを果たしていなかった。兄上の悪行を放置してた。王妃達はそれこそ兄上の犠牲者じゃないか。リーザにも辛い思いをさせた。本当は俺がもっと早く…」



『兄上を殺していれば』



その言葉は続けられなかった。


リーザが抱きついてきたからだ。



「ロバート、貴方は何も悪くないわ!違う。絶対に違う!貴方はいつもわたくしを助けてくれた!貴方はわたくしを救ってくれた!そうでしょう!?」



 リーザは涙を流しながらロバートの服を掴み、強い意志を持った目で見上げてきた。


 いいや。罪は、数え切れないほど、ある。


 王の暴挙を黙認していたこと。


 王の命に従ったこと。


 妃たちを、リーザを欺き抱いたこと。


 親友の妃までも汚してしまったこと。


 この国にとどめを刺したのは自分だということ……。


 その罪を清涼な水が洗い流す様にリーザは叫んだ。



「わたくしをいつも抱いてくれたのは、あなただったんでしょう?」



「リーザ……」



 知っていた?まさか。いつから…。



「知ってたわ!わたくしのことをリーザの名で呼ぶのはあなただけなのよ。王は第二王妃としか呼ばない。王があんなに優しいはずはない!媚薬と暗示が効くのもいつも最初の方だけ。わたくしは小さい頃身体が弱くて、薬を飲んでいたせいか、薬は効きが弱いの。でも、気がついても言えるわけがない!だって……」



 リーザは、第二王妃エリザベス・ブレイグは一気にまくし立てた。


 涙で顔をグシャグシャにしながらそれでもまっすぐロバートを見つめる。



「だって、口に出したら終わってしまう。わたくしは、あなたに抱いて欲しかったの。あなたと会うときが、あなたに抱かれているときが何よりも幸せだったの。あなたが………好き、なの………。あなただけが……」



 リーザはそこまで言うとロバートにしがみついた。



「好き、大好き。お願い。わたくしを置いていかないで……」



 リーザはロバートに懇願する。ロバートはリーザの肩に手を置き呟いた。



「リーザ…。俺は最期に君にだけは会いたかったんだ…」



「……どうして?」



 顔を上げたリーザの黒い瞳がロバートの顔を映し込んでる。



「全面降伏の伝令は各地に送った。家の整理も特に必要ない。他にやり残したことを考えたとき、リーザのことが思い浮かんだ」



「どうして?」



 聞きたい事はそれではないと言わんばかりに、リーザは問を繰り返す。



「俺にはもう何もないと思ってた。子供の頃の親友もワーズウェントの王子とわかったとき、別れを告げた。兄上には都合のいいときだけ使われて……いろんな人を欺いて傷つけた。月に一度、リーザと話す時だけがほっとすることができたんだ」



 ロバートは自分の気持ちと向き合い、リーザをまっすぐ見つめる。



「そうだな。きっと、ずっと好きだったんだ」



 ロバートはようやく自分の気持ちを受け入れる事ができた。


 認めてしまえば色々としっくりきた。



「好きだよ。リーザ。愛してる。だから絶対に生き延びてほしい」 



 その言葉を聞き、リーザは泣き笑いの顔になる。



「あなたと一緒じゃなきゃ、嫌……」



 リーザはロバートの首に、両手を回し、顔を引き寄せて口づけをした。


 背の高いロバートには背伸びして、ようやくかするような口づけしかできなかった。はじめてあった頃はあまり背の高さは変わらなかった。


 なのに、会うたびに大きくなったロバートは、今ではリーザより頭一つ以上大きい。



「リーザ……」



 ロバートはこれからリーザの側にいて望みを叶えてやる事はできない。


 けれと…せめて今だけは…。


 リーザの身体を引き寄せて、口づけを落とす。何度も、何度も。


 夜伽では何度も触れたことがある。身体の隅々まで。兄王の、ふりをして。


 けれど今はじめて自分自身としてリーザに触れる事ができた。ようやく………。


 リーザの瞳は媚薬に浮かされたときのように淀んておらず、まっすぐロバートだけを見ている。  



「寝室に、連れて行って………お願い……」



 ロバートは頷くとリーザを抱き上げ、続き間の寝室へと向かった。


 寝台に降ろしても、リーザはロバートの首に回した手を解かず、そのまま寝台に倒れる。ひっぱられたロバートもそのまま倒れ込んだ。


 リーザはロバートじっと見つめている。



「ロバート、好き、大好きよ……」



 何度も好きと繰り返すリーザが愛しい。リーザの頬に落ちる涙をぬぐう。



「ああ、俺も大好きだよリーザ」



 そしてまた、口づけを落とす。次第に深い口づけになり、舌が絡み合う。


 いつもは夜着だからドレスに苦戦しながらもようやく剥ぎ取ると、白のレースで統一された肌着が露わになる。


 夜伽ではいつも妖艶な夜着だったが、やはり清楚な雰囲気のほうがリーザには良く似合っていた。


 ロバートも上着を脱ぎリーザの上に覆いかぶさる。



「リーザ、かわいいな」



 そういいながら、小花の刺繍をちらした肌着の上から、優しく触った。リーザがぴくんと身動ぎする。



「本当…?そんな事言われたのはじめてよ。ロバート…。嬉しい…」



 遠慮がちな刺激に吐息まじりに答えが返ってくる。


 上気した顔でロバート見て微笑むリーザは本当に嬉しそうだった。



「俺…リーザの笑顔が一番好きだ。そうやってずっと笑っててくれ。約束だぞ?」



「あなたがいてくれれば、きっと笑っていられるわ」



 リーザはまったく諦めていない。


 ロバートは苦笑しリーザの髪をかき上げた。



「そうだなぁ。それ、すごく幸せだろうなぁ」



「そうよ。あなたとわたくし、そしてあなたやわたくしに似た、かわいい子どもたちとみんなで笑うの………」



 リーザも涙に震えながらロバートを抱きしめる。


 そんな日は、絶対に、来ない。


 でも、今だけは夢見ることは許されるだろうか?


 失うばかりだったロバートの最後に唯一手にできた、リーザ。


 流産してしまったのは自分の子だ。


 幸せになって欲しかった。


 幸せにしたかった。


 これから先、良き伴侶に出会って幸せになって欲しいと思う。


だけど、自分だけを思ってて欲しいとも思う。それはリーザには言わないけれど。


せめて今だけはお互いだけを感じていよう。いずれくる別れなど、今は考えたくない。


 ロバートはまたリーザに深い口づけを落とし、今までを埋め合わせるよう、お互いの名前を何度も囁きながら、想いを交わしあった。





 何度も熱情を交わし、リーザは幸せを噛みしめた。


 夜伽では、決して呼べなかった名前も、何度も口にできた。


 永遠に今日が続けばいいのに、と思いながら。



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