4 好きって言えれば
第26話
「ほ、ほんとにこんなんでいいの?」
「大丈夫だよ。皆やってるから」
ある日の昼休み。私は琴春にスカートをいじられていた。うちの学校はほとんど校則があってないようなものというか、何かと自由なのだ。
だからスカートの長さも人それぞれで、短くしている子も多い。
私も惠利沙をドキドキさせるために何度か短くはしてきたけれど、今日はその時以上に短くされてしまっていた。
うぅ、めちゃくちゃ心許ない。風が吹いたら大変なことになってしまいそうだ。今日が風の弱い日で良かったと思う。いや、むしろ見せつけるくらいの気概で攻めた方がいいのかな。いやいやさすがにそれは引かれそう。下品だって思われてもやだし。
「水葉は素材がいいんだし、活かさないと損だよ!」
「素材がいいならそのままでもいいんじゃ……」
「ダメダメ! 素材が良くてもちゃんと調理しないと! 生野菜と調理された野菜じゃ結構違うもんよ!」
私、野菜扱いされてます?
いや、まあ言わんとしていることはわからないでもないけども。
これで少しは惠利沙も私のことを意識してくれる……かなぁ。
彼女への気持ちを自覚する前から何かと攻めたことをしていたせいで、これ以上何をすればいいのかわからなくなってきているのだ。以前も結構頑張っていたと思うんだけど、あれ以上ってなるとなんかこう、過激な方にいっちゃいそうだし。
それこそ直接的に誘ってみる、とか。
あっしとキスしませんか? へへっ……みたいな?
いやいやなんだそれは。
「よし、これでどこに出しても恥ずかしくない! このヘアゴムは私が預かっとくから」
「えー……お気に入りなのに」
「小学生みが強すぎるし。ドキドキさせられなくてもいいならいいけど」
「うっ。わ、わかったよ……」
いつもはわざと子供っぽく見せるためにつけているけれど。確かに惠利沙をドキドキさせたいなら、そういうのはなしにする方がいいだろう。ここらで一つ、私の大人の魅力的なやつを。やつを……。
……。
私に大人の魅力なんて、あるかなぁ。
惠利沙と比べるとスタイルも全然だし、自信が……。
弱気になってどうする、私。大人っぽさはなくても私には可愛さがある……はず。
「よし……! とりあえず、行ってくるね!」
「頑張れー。終わったらレポート提出なー」
「大学の授業?」
私はちょっと呆れながらも、教室を飛び出した。向かう先は惠利沙の教室ただ一つ。
「え。惠利沙、いないの?」
「うん。なんか先生の手伝いに駆り出されてた」
「えー……どこ行ったかわかる?」
「職員室とかじゃない?」
はい。
なんとなくそんな気はしていました。惠利沙って意外と押しに弱いというか、ちょっとお人よしなところがあるからなぁ。ああいうところ、時々心配になる。いや、それはいいんだけど。
「ありがと。ちょっと探してみるね」
「いえいえー。あ、日和さん」
「なあに?」
「今日、いつもより可愛いね。いいと思うよ、そういうのも」
「……! ありがと!
「そ、そう?」
私は早足で歩き始めた。昼休みが終わる前に惠利沙を見つけて、この姿を見せつけてやりたい。放課後でもいいっちゃいいんだけど、ずっとスカートを短くしているのはちょっと。
そう思っていると。
廊下をふらふら歩いている惠利沙の姿が目に入った。
「惠利沙!」
「水葉ちゃん? どうしたの?」
彼女は凄まじく大量のノートを運んでいた。彼女は人より力持ちだけど、ノートの数が多すぎて運びづらそうにしていた。視界も塞がれちゃってそうだし。
「惠利沙が先生にやっかいごと押し付けられてるみたいだから、手伝おうと思って」
「押し付けられたっていうか、自分からやるって言ったんだよ。先生、ちょっと前にぎっくり腰になっちゃったみたいで……」
「人助けはいいことだと思うけど、もっと他の人にも頼りなよ」
私はノートの半分を彼女から受け取った。
「これ、職員室に運べばいいの?」
「うん。ありがとう、水葉ちゃん」
「どういたしまして」
私は彼女と肩を並べて歩き出した。ノートはちょっと重いけど、私でも持てないほどじゃない。
「この前他の子の掃除当番も変わってあげてたし、あんまりそういうのやりすぎるとほんとに色々押し付けられちゃうよ?」
「わかってるんだけどついねー」
「ついって……お人好しすぎるよ」
「それ、水葉ちゃんが言う?」
「え。ダメなの?」
「ダメじゃないけどさ。水葉ちゃんの方がよっぽどお人好しじゃない? いつもちっちゃい子とか助けてあげてるし……私にも、精気を分けてくれるし」
「それはまあ、人として当然というか……」
別に私はお人好しではないのだ。ただ人が喜んでいる顔を見ていると楽しいからやっているだけで。そういう微妙に不純な動機だから、自分が疲れている時はあまり人を助けたりしないしなぁ。
いや、どれだけ調子悪くても目の前で泣いてる子がいたら声はかけるけども。
「私はそういう水葉ちゃんが好きだから、同じようにしてるの」
好き。
その言葉にドキドキして、ノートを落としそうになる。私はなんとかノートを落とさないようにして、彼女に笑いかけた。
「そっか。でも、無理しないようにね」
「うん。水葉ちゃんも」
穏やかな空気が流れる。私たちは顔を見合わせてくすりと笑った。
職員室にノートを届けた後、私は軽やかな足取りで階段を上る。惠利沙の助けになれたし、好きと言ってもらえたし、今日の私はご機嫌だ。何かいいことがありそうだと思いながら、私は惠利沙の方に目を向けた。
ふわりと、スカートが揺れるのを感じる。
「惠利沙。今日はせっかくだし、一緒にごはん食べない?」
「……う、うん」
彼女は私を見上げながら、どうしてか微妙な顔をする。その反応に、私は首を傾げた。
「どうしたの? 変な顔してるけど」
「その、スカートが……」
「スカート?」
そう言われて、はっとする。
今の私、スカート短いんだった。
……。
えーっと、つまり。
「見えた?」
彼女は目を逸らす。
「なんか、すごいね。前より大人っぽいっていうか……」
「言わなくていいから!」
そりゃいつそういうことになってもいいようにって最近新調しましたからね。料理もそうだけど準備は重要だし。……引かれたかな。さすがに攻めすぎって思われたかもしれない。
ぐるぐる色んなことを考えてしまう自分に、少し戸惑う。
らしくない。らしくないぞ私。
普段はこんなに悩んだりしないのに、どうしてこうなるんだ。いやどうしてもこうしても好きだからに決まってるんだけど。
「とりあえず、お弁当持ってきて! どっかいい感じのとこで食べよ!」
「……うん」
私は誤魔化すように階段を上り切って、彼女に言った。
普段昼ごはんは琴春と食べることが多いけれど、たまには惠利沙と食べるのもいいと思う。私たちは中庭のベンチでごはんを食べることにした。穏やかな春の空気を感じながら食べるごはんは、いつもより美味しく感じられる。
ふと、この前の夢のことを思い出す。
あの時もこうして、一緒にごはんを食べたっけ。
私はおにぎりを齧りながら、彼女を見つめた。正確には彼女の唇を、だけど。
あれからキス、してないな。惠利沙の中で何かが変わったのか、夢でもキスじゃなくてただ触れ合うだけになってしまったし。それはそれでいいんだけど、物足りないのも確かだった。夢の中でくらい、キスしてくれてもいいのにって思う。
あるいは、現実でも。
「水葉ちゃん? 私の顔に、何かついてる?」
ええ、それはもう魅力的な唇が——じゃない。
「ううん、何も。今日も惠利沙は綺麗だなーって思って」
「そ、そうなんだ……」
まずい。
本心を抑えることができなくなっている。いきなり口説いたみたいになっちゃってない? 大丈夫これ?
私はそれ以上余計なことを言わないようにするために、口を閉ざした。
惠利沙もまたどこか気まずそうな様子でごはんを食べている。いつもならもっと会話が弾むのに。最近は本当に、色んなことがあったせいでこれまでのあり方がわからなくなってきている。それは恐らく、惠利沙も同じなのだろう。
私たちはそのまま、気まずい食事を終えた。
彼女が弁当箱の蓋を閉じたのを見て、私はゆっくり立ち上がった。
「えっと……教室、戻ろっか」
「そう、だね」
何これ。
いや、ほんとにやばくない?
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