守る

「警視庁の葛城です」

「同じく、八木です」

「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


警察手帳を見せ、屋敷の門をくぐる。庭には花や生垣などで複雑な模様が描かれている。こんなところに来た理由、それは今朝出勤後に遡る。







「令嬢の護衛?」


課長からの言葉を聞き返す。そうゆうのは民間の警備会社辺りに依頼すべきじゃないのか、そう疑問を呈する。


「そう言ったんだけどね、なんでも何もないところからふっと手紙とかが現れるらしいんですよ。」

「それが言業だと思われている、と」

「なら、行くしかないわよね。それが仕事なんだから」

「そうだな。」


そうして、私たちは財務大臣、財前道長ざいぜんみちながの1人娘、財前上羽ざいぜんあげはの護衛に着くことになった。


「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


「ようこそ、お越しくださいました。」


応接間には初老の男性が座っていた。

ーー財前道長。現役の財務大臣であり、過去3回の大臣経験がある。旧華族の家柄らしく、名門大学を卒業し、留学。帰国後に社長業を経験した後、政界に進出。と、エリート街道を歩んできた存在だ。


「ご存知かとは思いますが、一応、私は財前道長現在は財務大臣をやっております。」

「存じております。公安警察から来ました、葛城です。」

「同じく、八木です。早速ですが、事件についてお聞かせ願いますでしょうか?」

「はい、1ヶ月程前から娘の上羽のところに手紙が送られてくるようになりました。それ自体はありえないことではないと考えていました。なにしろ娘はモデルをやっていますから。」

「なるほど、ですが違ったと」

「えぇ、家に来る郵便物に関しては家の者に見させて大丈夫なものだけを娘に渡すと言うことにしたんですが、今度は家の庭に手紙が置いてあったりしたんですよ」

「投げ込まれたり、内部犯の可能性というのは調べられましたか?」

「はい、警察にも相談したんですがどうやって手紙が置いているかも分からず」

「……わかりました。そして、今回誘拐を仄めかす脅迫状が来たと」

「えぇ、」

「その脅迫状というのは拝見出来ますでしょうか」

「すみません。今は、他の手紙と共に提出していまして」

「大丈夫です。それで、娘さんはどちらに?」

「いま呼びます」


そう言って財前が使用人に声を掛けて少しすると奥から財前の1人娘、財前上羽が入ってくる。スレンダーなスタイルに長い黒髪、顔立ちも整っている。正直モデルなどには興味ないがが誘拐したい奴いるのも納得な人だ。


「上羽、この人たちがお前の護衛をしてくれる」

「お父さん!あんなの放って置いていいっていつむてるでしょ!」


娘の方は怒って応接間から出ていく。ドアを勢いよく閉めない辺り、育ちは間違いなく良いのだが、


「すみません。娘も手紙のことでストレスを感じていまして」

「大丈夫ですよ。私たちは仕事を行うだけなので」

「そうですか、では娘のことはよろしくお願いします」







「……で、なんでいるの」


護衛対象の財前上羽に問いかけられる。彼女としては見知らぬ人間に近くにいられるのは嫌だろうが、誘拐されるよりはマシだろう。……少なくとも私はそう思う。


「なんでかと言われれば、あなたの父親から頼まれたからですかね。それ以前にも通報がありましたし。なにより、それが私たちの仕事なので」

「そう……まあ、邪魔しないでね」

「しませんよ。こういう事は慣れてますから」

「そう……」

「………」


気まずい。正直人と話すのはあまり得意ではないのだが、風華もほとんど喋らない。私も口下手だからあまり責める気はないが同じ部屋にいるのに一切話さないというのはあまりいい空気ではない。


「……いま、何分?」

「10時半ですが、なにか用があるんですか?」

「仕事よ、仕事。撮影そろそろあるの」

「着いていきますが構いませんね」

「別に良いわよ、お父さんに心配掛けさせたくないし」

「では、行きましょう」







財前上羽の所属する事務所から撮影現場へと行く。事務所ですれ違った人のことを風華が目で追っていたが、有名な人なのだろうか。そんなことを考えていると撮影が始まる。

といっても私たちは特に何もしない。ただ撮影を眺めているだけだ。


「カットー!」

「すみません、お水いただけますか」


撮影はひと段落し、財前上羽は休憩を取っている。撮影内容はとあるチェーン店の新商品のCMというものだったが、そこでの彼女は先程までの彼女とは違って見えた。


「……随分と熱い視線向けてるのね」

「痛て」


風華に耳をつねられる。お前だって事務所で熱い視線向けてただろ、そう思ったが言わないでおいた。私はできる男だからな。


「そろそろ再開しようか」

「わかりました」

「撮影再開か。何かあったらすぐに」

「わかってるわ、」


刹那、私たちの間を縫うようにが飛んでいく。


「風華!」

「『備えあれば憂いなし』」


風華の手元にライオットシールドが出現し、スタッフ達を庇い、私がピンを掴んで外に投げる。すると、凄まじい光がピンの近くから巻き起こる。


「なんだあれ?」

「閃光弾?かしらね」

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異能の言霊 和同開珎 @Clef100901

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