穿つ

翌朝、容疑者についての情報を共有する。


「彼がそうってこと?」

「そうだな。雨宮泰輝あめみや たいき。彼はほとんどの現場にいる。」

「ほとんど?」

「あぁ、全ての現場にいるわけじゃない。でも、たまたま事件と重なっただけで、建物自体の老朽化で雨漏りしただけかもしれない。いずれにしろ、ほとんどの現場にいるんだ。容疑者であることは間違いない。」

「そうね。じゃあ行くわよ」

「あぁ」







雨宮泰輝が住んでいるアパートの一室に向かう。チャイムを鳴らすが反応がない。


「居ないのか?」

「今日土曜日だしその可能性はあるわね。」


そう話していると、アパートの住民に声をかけられる。


「雨宮さんに何か用かい?」

「えぇ、少しお話を」

「雨宮さんは出かけてしまったよ。」

「出かけた、どちらに?」

「えーっと……そうだ。横縄公園に行くって言ってたねぇ」

「横縄公園?」

「……!たしか、岐山会のトップがスピーチするって聞いたわ」

「それが狙いか。ありがとね、おばちゃん」


車に乗り、横縄公園へと向かう。


「スピーチの開始時間っていつだ?」

「あと、30分くらいね。」

「ギリギリだな。課長達に連絡しといて」

「了解。連絡しとくわ」






横縄公園に到着する。幸いスピーチはまだ始まっていないようだ。


「手分けして探すぞ」

「えぇ、」


程なくして、雨宮を見つけた。銃を確認し、声をかける。


「すみません、少しお話よろしいでしょうか」

「なんですか?」


雨宮は少しびくついている。人1人殺したのに呑気なもんだ。分からないわけじゃないが。


「警視庁の葛城です」

「同じく、八木です。」

「田崎秋二氏の殺人事件についてお聞きしたいことがあります。」


雨宮は明らかに動揺している。


「なぜ、私が怪しいと?」

「別件の現場にあなたが多数居合わせており、その手口が似通っていました。」

「なるほど、聞きしに勝る優秀さですね。公安言霊課と言うのは。」


雨宮が呟く。なぜ、と言う前に公園のスプリンクラーが破裂し、辺り一体に水が撒き散らされる。スピーチの聴衆はスプリンクラーから蜘蛛の子を散らすように離れていく。


「……なぜ、我々のことを?」

「あなた方なら私が所属している組織など調べ上げているでしょう」

「銀友会。やっぱ岐山会の関係者の暗殺が目的か」

「えぇ、ですがこの状況では私の目的は果たせそうにない。」

「なら、逃げるか?」

「そうしたいですが、あなた達がいる限り出来そうもない。」

「なら、殺すか?」


銃を構え、雨宮を牽制する。見たところ銃の類いは持っていないだろう。しかし、雨宮は笑う。


「気をつけてくださいよ」

「なにをだ?」

「俺の言業は『雨垂れ石を穿つ』。もう、攻撃は始まってるんですよ。」


その言葉を聞くと同時に反射で後ろに跳ぶ。すると、足元にあった小石が削られる。


「一発で削んな。言葉の意味わかってる?」

「当たったら、ほんとに不味そうね。」


一旦、距離を取る。現場に居たことを考えれば射程はそう長くは無いはずだ。


「で、どうするの?」

「距離を取りつつ、身動きを封じる。四肢を狙え」

「時間かかるわよ、それ」

「別に良い。時間かければ有利になるのはこっちだからな」

「……了解。」


こちらも撃っているが距離をとっている上に、四肢を狙っていることもあり、当たっていない。とは言え、相手側も近づけば撃たれる可能性があるからか、近づけていない。


「……だからと言って、時間かけるわけにもいかないよな」

「催涙ガスって有り?」

「ダメだろ。人が少ないとは言え、近隣は住宅街なんだから」

「じゃあ、どうするのよ」

「大丈夫だ。もう直ぐで慣れる。」


戦闘開始からそろそろ15分。俺の言業が発動できる。


「……行くぞ!」

「了解」


俺が先陣を切って、風華は後ろから銃を構えさせる。が、基本的には俺が仕留める。

「こいよ」

挑発をしつつ、距離を詰める。そろそろ射程圏内だ。

「雨垂れ石を穿つ!」


雨宮が言業を発動する。だが、


「そいつには


俺の頭に言業によって生成された水滴が頭に当たる。だが、


「……『住めば都』。それが俺の言業だ」


膝を撃ち抜き、雨宮の身動きを封じる。


「さてと、お前は銀友会に言われて田崎秋ニ氏を殺害し、岐山会のトップ、加藤飛鳥氏を暗殺しようとした、そうだな」

「あぁ、そうだ。銀友会に言われてやった。」


自白は取れた。こっちに近づいて来なかったことを考えるに死ぬ覚悟はない、そう言う事なんだろう。


「これを飲め。そうすれば法律の範囲内での扱いは保証しよう。」

「飲まなかったら?」

「敵対的な言業使いに対しては私たちは殺傷を許可されている。」

「分かった、飲むよ」


雨宮が薬を飲む。これで言業は封じられた。応援を呼び、雨宮を署まで連行する。






「終わりました。」

「お疲れ、悠斗ちゃん。どう?今夜飲みにいかない?」

「お、良いね。俺も言っていい?」

「じゃ、私も」

「あ、課長。ご馳走様です」


課長の奢りで飲みに行った。この人、妻子持ちだよな?大丈夫なんだろうか。

その後、銀友会には捜査が入り、色々と悪事がバレた結果解体された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る