冒険

兀兀翳

勇者たるもの

人々は私を勇者と呼ぶが、勇者とは勇気のある者をそう呼ぶのであり、家にひきこもっている臆病な人間たる私が勇者な訳が無い。

勇者は英雄と同一視されるような偉大な者の象徴であるが、私は一般人の中でも底辺の体たらくなニートで、典型的なキモオタの象徴である。かの天照大神も引き籠っていたと日本神話に記述があり、天岩戸隠れと呼ばれているそうだ。故にある意味ニートは偉大な人間とも言える。言えるか愚か者。

暗闇の部屋。カーテンから僅かに日が差しているが、依然部屋は闇に覆われている。今が何時であるか分からないが、わかったところでどうでもよく、いつものようにアニメを見てゲームをして気が済んだら寝るだけだ。

基本的にこの部屋から出ることは無いが、食事を摂る時とトイレに行く時は一時的に部屋を出なければならない。

起床直後はいつも便意があり、トイレに行っている。無論今日も腹がキュルキュル鳴ってるのでさっさと開放されたいのだが、ドアを開けたくない。

人だ。人の気配がする。

私は気配を消す。無音。ドアの先は異様。キュルキュル鳴る腹。ちらりとのぞく日光。

ギシ……ギシ……

ベッドが呻く。動かないようにしていたはずが、緊張で震えていたらしい。音にならないよう調節して深呼吸をする。ふと、人は1日に何度まばたきをするのだろうと考える。

コン、コンと音が鳴った。

やはりか!私の勘は当たっていたようだ。ドアの先には人がいる。

私はただドアを見つめる。備えとして杖を抱えながら。

ドアの先の人物はもう一度ドアを叩いてこちらの反応を伺った。私は無視を決め込む。……このまま帰ってくれればいいのだが。

そろそろトイレに行きたい。そう思ったのと同時に、何者かが言葉を発した。

「たかし、王様に魔王の討伐を依頼されてもう半年よ……パーティも作らず、モンスターも倒さず、一体その部屋で毎日何してるの……。」

うるせえババアと私は怒鳴った。ババアは動じること無く言葉を紡ぐ。

「ねえ、いつまでもこのまま生きてけると思ってるの?お腹を痛めてまで産んだ大事な私の息子だから、こんな事本当は言いたくないけど……もしあと1週間経っても動かなかったら、反逆罪としてあんたを捕らえるよう自警団に動いてもらうわよ……あんたのせいで私まで責められるのはもういやよ……ねえ、1年以上引き籠ってるあんたは私に恩を返そうとか思わなかったの……」

は?私を反逆罪として捕らえるだと?正気なのかこのババアは。

 

ある日、いつものように部屋でゲームをしていたら、突然ドアが勢いよく開き、入ってきた軍人の1人に、貴様は王の謁見を許された。直ちに着いてこい。貴様に拒否権は無い。と言われ連行された。

王宮なのだろう。豪奢で幾何学的な模様が一面に広がっており、全方位が金色に輝いていた。なかでも柱は特別な素材なのか透き通っており、周囲の金色を映すそれに私は思わず頬が緩んだ。

貴様、王の御前でなんたる無礼な振る舞いだと一喝され、私は柱から目の前の人間に目を移そうとした。

そのとき軍人に後頭部を掴まれ思い切り地面に叩きつけられた。あまりの勢いに私は気絶しそうだった。痛みに耐えるのが精一杯で軍人が何を言っているのか不明瞭だったが、恐らく王を眼に映してはいけないのだろう。謁見を許されたのではなかったか。

 ここから記憶が曖昧だったが、貴様には魔王を屠る力があるとか、仲間を募り討伐をするよう命じられたのははっきり覚えている。

 そして私は半年間何もしていない。1年ニートしてる人間が簡単に動けるわけないだろう。魔王の討伐?パーティを募る?モンスターを倒す?

 無理に決まっているだろ。馬鹿なのか。

 思い切りドアを蹴った。ババアが情けない声を出しながらドンドンと音がならした。転んだのだろう。どうでもいい。

 頭に血が上っている。もう殺してしまおうかと殺意が沸騰しているかのようにふつふつと湧いてくる。

 ピコン、と音が鳴った。

 私でも、ババアでも無い。どうやらスマホの通知音のようだ。私はスマホを取り確認した。通知を確認しますか?という問いに確認するを押し、そこに書いている内容に私は興奮して足踏みした。

 勇者様へ。私たちと遊びませんか?いつでもお待ちしております。夜はもっと過激に遊びましょ?

と書かれた文の下には画像が幾つか添付されており、全て際どい格好で艶っぽいポーズを撮っている美女達が映っていた。

 やべえ。天国だ。興奮が止まらない。

 はぁはぁ言いながらドアを開けてババアに近づく。ババアは怯えており私が近づくと小さく後ずさった。

 ババアにハイブランドの服を1式用意しろと言ったのだが、そんな金は家にはないというので、じゃあ俺に合う服を用意しろと壁を思い切り叩いた。

 ババアはあんたの為に用意していた服があるというので、トイレで用を足している間に私の部屋に置いてさっさと視界から消えるよう命じた。

 トイレから部屋に戻り、用意された服を着て、鏡で自分を映す。

 ブラックレターで装飾された数箇所にジッパーのある黒い服。龍の模様が書かれたダメージ加工されて数箇所にポケットのある黒いデニム。それを覆う黒いマント。

 カッコよすぎる。……二つ名は黒の剣士だな。魔法使いだけど。

 いや分かってる。厨二病っぽいよな?ダサイって思うよな?でもそれは一般人の基準だろ?私は勇者だ。王に認められた立派な勇者だ。美女を侍らせて魔王を討伐する救世主だ。

 世界で私にしかこのファッションは認められない。

 勇者はまずファッションから冒険するのだ。

 いやまじでかっけえ……

そして美女達とイケナイコトができるパーティに参加した私は、魔物の供物とされこの世を去った。

 冒険なんかしたって良いことはひとつも起こらないのだと、死ぬ間際思った。

 ちなみに魔王はうちのババアが倒したらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒険 兀兀翳 @mizimezimezimesignifier

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る