Theadの調査報告 1

 はじめまして。Theadティーヘッドと申します。


 私は普段、別名義で脚本を執筆しているのですが、インターネット上で話題となっている、ある事件(この表現が適切かは分かりませんが)について興味を抱きまして。


 今回私は、独自に情報を収集し、その内容を公開していきたいと考えています。その結果、必ずしも真相に辿り着けるとは限りませんが、最終的には調査記録として文章にまとめるつもりです。


 普段はフィクションの脚本を製作していますが、今回は実際に起きた事件を調査する、いわばノンフィクション。別名義を用いたのも、普段とは異なる形態で活動となるからです。今回使用する「Thead」という名義に深い意味はありません。何となく思いついただけです。もしかしたら普段使用している名義の頭文字が「T」なのかもしれません。そこはご想像にお任せいたします。


 前置きが長くなってしまいましたね。これから本題に入っていきたいと思います。


 私が興味を抱いた事件というのは、一カ月前に配信者のXさんが突然活動を休止した件についてです。精力的に活動を続けていたXさんが、突然の体調不良で無期限の活動休止に入り、一ヵ月が経った現在でも復帰しておらず、公式からも何のアナウンスもありません。


 普段はホラー小説を執筆しているといいましたが、私は作業のお供によくゲーム実況などの配信を流しておりまして。Xさんの配信もよく聞いていました。現状最後となっている5月24日の配信も、リアルタイムで視聴していましたが、持ち前のセンスで高難度アクションゲームをプレイし、クリア後はその週のスケジュールを視聴者と共有するなど、とても元気そうな様子だったことをよく覚えています。


 Xさんはまだお若いですし、夜遅くまで配信することは滅多にない、昼型の活動スタイルでした。運動好きも公言していましたし、どちらかといえば健康的な印象の配信者です。もちろん、どんなに若くて健康的な人間であっても、体にいつ何が起きるかは誰にも分かりません。ですがこれらの情報だけでも、Xさんの体調不良による無期限の活動休止が、あまりにも唐突な出来事であったことはご理解いただけたことでしょう。


 休止が長引くにつれて、その原因について、一つの噂が流れるようになりました。


 Xさんは呪いのゲームをプレイしてしまい、そのせいで体に異常をきたしてしまったのではないか?


 Xさんは最後の配信でその週のスケジュールを視聴者と共有し、次回は5月27日に「一七夕いちたなばた」というホラーゲームをプレイする予定だと語っていました。実は「一七夕」は元々、いわく付きのゲームとして、一部界隈では有名な作品なのです。


 Xさん実況者としてゲームの知識は豊富だったでしょうし、最後の配信での口振りから、いわくについても把握していたと推察される。Xさんは配信でプレイする前に活動休止に入ってしまいましたが、25日と26日はお休みでしたので、そのどちらかで配信に備えて、テストプレイを行った可能性があります。その時にゲームの呪いに感染してしまったのではと噂されているのです。


 「一七夕」は2024年の8月1日に、PC向けのゲームストアにて配信開始されたホラーゲームです。


 ドット絵で表現されたキャラクターを操作し、不思議な館の謎を解いていくホラーアドベンチャーとのことですが、内容の詳細は不明です。


 呪いのゲームの噂が流れ始めたのは、リリースから一月ほどが経ってからで、ゲームをプレイ後に謎の体調不良を訴えるプレイヤーが続出したと言われています。曖昧な表現になっているのは、真偽が不明だからです。


 呪いの噂の真偽ともかくとして、体調を崩してしまうほどインパクトのあるゲームなのかと、「一七夕」は一部で注目を集めたと言います。Xさんがゲームをダウンロードしたのも、恐らくはこの頃でしょう。


 しかし、話題が沸騰する中、「一七夕」は突如としてゲームストアから姿を消し、呪いの噂に、より信憑性を持たせました。


 噂も含めて、全てが話題作りのマーケティングなのではという見方もあったようですが、収益に繋がるゲーム自体の販売されなくなってしまったら本末転倒ですから、この説は正直弱い。結局のところ、謎は深まるばかりでした。


 「一七夕」は一体どういう内容のゲームだったのかについても調べてみようと思いましたが、前述の通り、「一七夕」はゲームストアからはすでに削除されており、現在は新規でプレイすることは出来ません。また、公式ホームページおよび、開発者のSNSアカウントもすでに存在しておらず、あらすじやゲームの仕様を確認することは出来ません。ゲームのプレイ動画なども探してみましたが、核心に迫るような情報は得られませんでした。中には一度インターネット上に投稿されたにもかかわらず、投稿者自らが動画を取り下げたと思われる動きも確認出来ました。これも呪いの噂を加速させた一因だったようです。


 現状ではゲームの詳しい内容は謎のままですが、「一七夕」を実際にプレイしたことのある人物を探すなどして、この件は引き続き調査を進めていきたいと思います。


 最後に一つ、衝撃的な事実が判明しましたので、ご報告させて頂きます。「一七夕」の開発者についてです。「一七夕」はゲームクリエイターのZ氏が個人で開発したゲームだったそうですが、Z氏の近況について調べてみたところ、昨年の10月に亡くなっていたことが判明しました。ゲームがストアから削除されたり、公式ホームページやSNSアカウントが削除されたのも、運営していたZ氏が亡くなったことを受け、関係者が全てのプロジェクトを終了させる方向で手続きをしたという経緯だったようです。


 こうして素人探偵の私が調べられたぐらいですし、当時もゲームの制作者が亡くなっていたことを知っている人は、一定数いたことでしょう。あるいは順序が逆で、制作者が亡くなり、ゲームの配信が停止したことがきっかけで、不謹慎ですが呪いのゲームなどという噂が広まったのかもしれません。そう考えれば筋は通ります。


 しかし、当時の噂はそれで説明出来ても、一ヶ月前にXさんが突然の体調不良で活動を休止したのは紛れもない事実です。もちろん、呪いなんて存在せず、全ては偶然だと言ってしまえばそれまでですが。


 いずれにせよ、今後もこの件に関する調査は続けていきます。呪い云々は置いておいても、「一七夕」がどういった内容のゲームだったのかも、純粋に気になりますしね。

 

 調査記録の続報をお待ちください。

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