神の守護を持つ聖女とか最高のタンクじゃん

弓チョコ

起 守護の聖女

 わたし別にそんなんじゃないけど……!


「聖女さまー!」

「すげえ! 初めて見たぜ俺! 危ないけどこの街来て良かったー!」

「美人すぎる……!」

「なんか光ってない?」

「神の加護だって! あれが『守護の加護』!」


 週に一度。お城の2階から、姿を見せることになっている。ベランダから、国民に向けて笑顔で手を振る公務。

 違うんです。


「聖女って人間じゃないんだろ? 確か不老不死って聞いたぞ」

「そうそう。元は人間なんだけど、神様に加護を受けた時点でもう別種だって」


 違います。それ、噂がひとり歩きしてて。普通に人間のままです。


「100年前から王国を守ってるんだよな」

「そうそう。顔変わらないってウチの親も言ってたし」


 違います。代替わりしてるんです。世襲なんでお母さまから受け継いでます。


「聖女さまが居るから、これ以上魔物が侵入してこないらしいぜ」

「凄えな。守護の加護」


 違います。普通に国軍の兵士さん達の頑張りです。わたしの加護は……。


「国全体を神力で覆って守ってくださってるんだろ?」

「いやいや、人間界全体って聞いたぜ」

「魔物も魔族も、魔法を一切通さないってな」


 違うんです。わたしの加護……。


 『わたしだけ』なんです!






†††






 大陸は南北に分かれています。北側に魔族達の領土。普通の動物や人間が住むことのできない厳しい寒冷地で、地獄の冷気を携えて魔族達が生まれてきます。

 最北端に地獄へ繋がる穴があるとされ、その穴を魔王が守っています。それを倒し、穴を塞ぐのが人類の悲願です。


 南側がわたし達人間の領土。全部で7つの国によって治められています。

 わたしの産まれた国は、魔族達と大陸の領土を争う最前線の国。人類の砦。

 『守護の加護』を擁する鉄壁の国です。


 まあ、神様から与えられたその『守護の加護』は……。

 わたしなんですけど。


「『守護の聖女』様」

「……はい」


 お城の中に戻ると。

 お国の防衛大臣のおじさまが待ち受けています。他にも、街や国の偉い人達。


「いかがですか。『神力』のほどは」

「はい……」


 先代聖女のお母さまは、確かに街全体を『守護の加護』で守っていて、人間界の防衛に多大な貢献をした。

 先々代のお祖母さまは、国全体を守護できたらしい。

 その前のひいお祖母さまは、大陸の南半分を全て。


「んん……」


 両手の指を合わせる。神様の力をお借りする。力が、流れてくる。

 その光はわたしを包みこんで。透明な球体に拡がっていって。


「…………はぁ」


 そこで止まった。


「……半径、2メートル、ですか」

「うう……。これが限界みたいです……」


 これが、今代の『守護の加護』。

 人類の砦。国の守護。

 全然違うんです。

 わたししか、守ってくれないの。


「ふむ……」


 皆の溜め息が聞こえます。申し訳ない気持ちで一杯になります。

 これじゃ聖女なんてとても。似つかわしくない。中身はただの人間。


「『神力』の低下は、実は各国も同じだという情報が内密に共有されています。『泉の聖女』の生み出す生活用水は年々減っており、内地の方で少しずつ畑が枯れ始めていると」

「そんな……」


 7つの国に、それぞれ神様から加護を受けた聖女が居ます。それぞれの加護は、人類の為になるものが与えられています。『泉の聖女』は水を生み出して人間界全てに行き渡らせていますし、他にも『豊穣の聖女』のお陰で作物は豊かに実ります。


 ですが、そう。その聖女の力が、徐々に衰退していっています。


「このままでは、外から魔族に攻め入られるだけでなく、内部からも崩壊してしまう」

「ではどうするべきか……」

「わが国の聖女さまの衰退が一番防衛に打撃なのでは?」


 衰退。

 ……そうなんです。わたしじゃ、聖女と言われる資格なんてないんです。


「あっ。じゃあギルドから提案なんだけど」

「!」


 そこで。

 勇者ギルドのマスターから手が挙がりました。


「今度新しく加入した新人勇者なんだが、パーティがまだ集まってなくてさ。特に盾兵タンクは総数も志望者も少ない」

「……ギルドマスター殿? 今、それが何の……」


 勇者。人類の支配圏から北上して、魔王討伐を目指す勇気ある者のこと。人類圏守護に必要な為、兵士は人員に割けない。だから、各勇者は基本的に少数で編成された隊で冒険をする。

 確かに、わたしにはあんまり関係ないけど……。


「いやさ、聖女さまの『守護の加護』。魔物や魔族の攻撃を一切通さないんだろ?」

「え……」

「まさか……」


 ギルドは、七大国の政府管理組織ではありません。勇者は、貧民や庶民が殆ど。公的には、魔王討伐を願ってはいれど、大々的に支援はできない『民間組織』。ただ、勇者の存在は国民の希望でもある為、世間に対しての影響力はあって、だからギルドマスターさんもお城に出入りできています。

 つまり『守る』七大国国軍と、『攻める』勇者ギルド。惜しむらくは、その『攻め』が成果を挙げたことはなくて、勇者はどれだけ旅立っても殆ど帰らずの人となっています。


 だというのに。


「聖女様」

「……はい」


 どくん。

 焦る。何を言われるのか。余り清潔に見えない、お城に似つかわしく無いような、ギルドマスターさんに。

 まさか……。


ギルドウチに入りませんか? 盾兵タンク、やりましょう」

「!」

「ギルドマスター殿!」


 踊りませんかと、酒場で誘われるように軽く。

 提案、されたのです。

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