第39話 旅のお許し



「まさか、ニルヴァとマナワットがここまで強くなっていたとは想定外でした」



「院長先生……」



 寺院での摸擬戦が終了し、見事勝利を収めたニルヴァとマナワットに対し、院長先生は約束通り二人に古代遺跡『エーカム洞窟』探索の許可を出した。



「アグニとヴァーユが身に着けていた身代わりの腕輪を一瞬で壊した力……あれがニルヴァの“得意な魔法”なのですね」



「は、はい……」



 正確には、ニルヴァが発動したのは魔法ではなく魔術だが、この時代の人間は魔術を知らない。

院長先生はニルヴァが使った力が普通の魔法ではないと気づいていたが、その辺りの事を深く追求することはせずに、ニルヴァの得意な魔法とだけ言った。



「まあまあ安心してよ院長先生。ニルくんとマナちゃんは妾がしっかり見とくからさー」



「旅の途中で賊に遭遇したら、何をしてでも二人を守るのですよ」



「それって、どこまでやっていいの?」



「文字通り、“何をしてでも”です」



 エーカム洞窟に行けることを喜んでいたニルヴァとマナワットの横で、なにやら不穏な話をする院長先生とトート。

寺院の子供達を守るために、密かに侵入者の『掃除』を行なっていた院長先生の覚悟はどこまでも決まっていた。



「ニルヴァ、マナワット。エーカム洞窟へはいつ出発する予定なのですか?」



「えっと……どうしよう?」



「わたしは、いつでもいい」



 とりあえずセーヴァの仇討ち的な感じでエーカム洞窟に行きたかっただけのニルヴァは、旅の日程などはあまり考えていなかった。



「シューンニャム神殿はスィフルオアシス街から近く、歩きであっても日帰りで行くことができます。しかし、エーカム洞窟に行く場合はラクダを使わないと日帰りでは行けませんよ」



「ラクダなんて、ぼく乗ったことないよ」



「わたしもない」



 実際、セーヴァがエーカム洞窟に行った際はラクダを使っていたため、魔物に襲われて毒を受けても症状が悪化する前になんとかスィフルオアシス街に帰ってくることが出来た。

それに、前回のシューンニャム神殿への旅はセーヴァについて行っただけなので、旅の準備やスケジュールはセーヴァ任せであった。



「歩いて行くなら水と食料をしっかり準備しといた方がいいよー。マナちゃんは火魔法も使えるんだっけ?」



「少しなら使える」



「それなら洞窟内の明かりは大丈夫かなー」



 ニルヴァとマナワットがどうしようかと悩んでいた時、トートが旅の予定や準備を二人に色々と教えながら進めてくれる。

勢いでエーカム洞窟に行きたいと言ったが、やはりもっと旅のことや、古代遺跡のことを勉強しないと自立なんて出来ないなとニルヴァは心の中で思った。



「あとは、天気かな。明日はワーヒドゥオアシス街方面で砂嵐が発生するっぽいから、エーカム洞窟に行くなら早くても明後日からにした方が良いねー」



「トート先生、何故そのようなことが分かるのですか?」



「トートは占術天候師なんだよ」



「明日のお天気とか、当てられる」



「えへへー」



「……まあ、いいでしょう」



 古代魔道具『追憶の書』の機能として、大気中の魔素を分析して数日先の天気を予測することができるトート。

そんなことを知らない院長先生は少し懐疑的な目で彼女のことを見ていたが、ニルヴァとマナワットまで言うなら本当にそうなのだろうと無理やり納得した。



「それではニルヴァ、マナワット。明日は一日、当番業務を無しにします。トート先生に助言を貰いながら準備を行なって、明後日からの旅路に備えなさい」



「分かりました、院長先生」



「ありがとうございます」



 こうしてニルヴァとマナワット、そしてトートの三人……いや、二人と一冊は新たな旅路『エーカム洞窟の探索』に向けて動き出すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る