第38話 ワンパンメン



「炎よ、燃え続けろ……!」



「風よ、炎を巻き込んで……!」



「……こっちだよ、どこ狙ってる?」



 摸擬戦が始まって少し時間が経過した。

アグニとヴァーユは協力して炎の渦を操り、アカーシャの中を走り回るマナワットを攻撃しようとする。

二人とも、魔法が使えないニルヴァは後回しにして、魔石のエネルギーが切れる前に肉体強化魔法が使えるマナワットを先に倒そうと考えたのだ。



「くそっ、マナワットのヤツすばしっこいな」



「炎が掠っても、あまりダメージが入っていないみたい……」



 マナワットは持ち前の瞬発力を生かして炎の渦を操るアグニたちを翻弄する。

避けきれずに炎が少し当たっても、肉体強化魔法で耐久力を強化したおかげで、マナワットの身代わりの腕輪にはヒビ一つ入っていない。



「このままじゃ、こっちの方が先にバテちまうな……」



「いっそのこと、最大火力で一気に攻め込んだほうがいいかもしれないわね」



 アグニとヴァーユが魔法で操っている炎の渦は、マナワットの耐久力アップの魔法よりも魔力の消耗が大きい。

このままでは先に魔力切れになり、マナワットに倒されてしまう……そう考えた二人は、炎の渦の威力を上げて一気に片を付ける作戦に出た。



「炎よ、燃え上がれっ! もっと、もっとだ!」



「風よ、舞い上がれっ! 強く、激しく、もっと大きく!」



 ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~ッ!!!!



「す、すごい……」



「炎の竜だ……」



「こ、こんなの勝てっこないよ……」



 摸擬戦を見ていた子供たちが、アグニとヴァーユが発動した魔法に目を奪われる。

巨大な炎の渦が立ち昇り、ウネウネと蠢きながらマナワットに狙いを定めている。



「降参するなら今の内だぜマナワット」



「身代わりの腕輪でも、ダメージを吸収しきれないかも」



「……わたしの肉体強化魔法は、そんなにヤワじゃない」



「こ、こいつ……っ」



 自分たちの最大火力の魔法を年下のマナワットにコケにされたアグニとヴァーユは、前方にいるマナワット目がけて炎の渦を撃ち込んだ。

しかし、二人は気付いていなかった……マナワットに気を取られている間に、背後に回っていたもう一人の摸擬戦参加者の存在を。



「(身代わりの腕輪を、解除する……小さな小さな腕輪の素に解き分かれていくのをイメージして……)」



 アグニとヴァーユの背後に回ったニルヴァは、二人の腕に装着された腕輪に狙いを定め、魔術を発動する。

炎の渦を操るために手を伸ばして前方に集中している二人は、それに気づかない。



「腕輪よ、解けろ……っ!!」



 シュワアアアアアアアアアアアアアアアア……



「……は?」



「……えっ?」



 ニルヴァが魔術を発動し、二人の腕輪に触れたところでようやく彼の存在に気付いたアグニとヴァーユ。

しかし、時すでに遅し……二人の腕に装着されていた身代わりの腕輪は、形を失って小さな小さな素となり、大気中に消えていった。



「お、おい……俺の腕輪は?」



「わ、私の腕輪も……」



 なにが起こったのか分からず、魔法の発動も止めて自分の右腕を見つめるアグニとヴァーユ。

しかしそこには、先ほどまで装着していた身代わりの腕輪はキレイさっぱり消えていた。



「院長先生、ニルヴァが二人の腕輪を壊しました」



「そ、そのようですね……そこまで! 勝者、ニルヴァとマナワット!」



 院長先生がニルヴァたちの勝利を告げると、摸擬戦を見ていた子供たちが一斉に騒ぎ出す。



「ニ、ニルヴァすっげー! 一発で腕輪ぶっ壊しやがった!」



「ちょっとコツンってやっただけに見えたのに……実は肉体強化魔法でめっちゃ強くなってたとか?」



「ワンパンメンだワンパンメン!」



「ワ、ワンパンメン……」



 その日から、ニルヴァのあだ名が『色なし』から『ワンパンメン』へとジョブチェンジしたという。



「よかったね、ニルヴァ」



「な、なんか嬉しくない……」

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