第6話 消えたマナワット



「よし、できた……!」



 前回の当番割りから一周し、再び料理当番が回ってきたニルヴァ。

また料理を作るのが遅れてどやされるのも嫌なので、今回は魔法の練習などをせずに火打石を使って手早く火をおこし、いつもの夕食の時間よりも早く料理を作り終えることができた。



「夕食まではまだ時間があるから、蓋をしておいて……う~ん、少し休憩しよう」



 ニルヴァは、寺院の子供たちで回している仕事当番の中では料理が一番好きだ。

水汲みはマナワットみたいに肉体強化の魔法を使えないと重くて大変だし、洗濯や掃除も体力的に重労働。

寺院へ礼拝に来る人たちの対応は、人見知りで話すのが苦手なニルヴァにとっては少々ストレスだった。



「料理は、魔法が使えなくてもがんばって美味しくできるから楽しいな」



 ニルヴァたちが寺院で食べている料理の食材は、礼拝に来た人の寄付金で買った物の他に、食材自体を寄付してくれた物も多い。

自分たちで買う時は安くて栄養のある豆類が多いのだが、寄付で貰う時は色々なので、どんな料理を作りたいかというより、当番が回ってきたときに用意されている食材で何が作れるのか考えて料理をする。



 ニルヴァはあり合わせの食材で色々考えて料理を作ることが結構好きだ。

魔法が使えない代わりに何でもいいから寺院の皆の役に立とうと、兄貴分のセーヴァに聞いたり本を読んだりして少しずつ料理のレパートリーを増やしていった。



 逆にマナワットなどは料理が面倒くさいらしく、ニルヴァが水汲み当番でマナワットが料理当番の時は、ニルヴァに当番を交換して欲しいと愚痴ってくる事がよくある。

実際、寺院の院長先生は子供たちの適材適所も考えて、得意な仕事の当番を多く、苦手な仕事の当番は少なめに調整していたりする。



「それにしても、マナワット遅いな……いつもならとっくに戻ってきてる時間なのに」



 本日、お得意の水汲み当番が回ってきたマナワットは、いつも通り巨大な水瓶を頭に乗せてオアシスに向かっていった。

普段であれば、マナワットがこぼれそうなくらいに水が入った重い水瓶を軽々担ぎながら調理場まで水を補充しにやってくる時間なのだが、ニルヴァが少し早めに料理を作り終えたとはいえ、帰ってくるのがだいぶ遅かった。



「……ちょっと、様子を見に行ってこようかな」



 いつもとは少し違う状況に不安を覚えたニルヴァは、料理を作り終えたことを院長先生に報告してから寺院を出発し、夕暮れ色に染まるオアシスに向かって走り出した。



「はあっ……はぁっ……お、おかしいな……この辺を歩いてると思ったんだけど……」



 寺院からオアシスまで、それなりに距離はあるけど一本道だ。

しかもあれだけ大きな水瓶を頭に乗せていたら、マナワットが歩いていればすぐに気付くはず。

それに銀髪のニルヴァ程ではないが、マナワットの燃えるような赤髪も、黒髪が多いアラビアク人の中では珍しいのでよく目立つ。



「どこかで水瓶を落としちゃって、水を汲み直してるとか……? でも、マナワットに限ってそんなことは……」



 結局、オアシスの近くまで走ってきたニルヴァだったが、巨大な水瓶も赤髪の少女も見つけることが出来なかった。



「さすがに、あの水瓶を乗せたまま食材の買い出しまでやってるとは思えないんだけど……」



 様々な食材を扱う市場があるのは、オアシスとは反対側のエリアである。

それなら寺院に寄ってから行けばいいわけで、マナワットが見つからない理由がニルヴァには分からなかった。



「なあ聞いたか? 最近この辺りで『孤児狩り』が出たらしいぜ……」



「そうなのか? この辺も物騒になってきたな……」



「うちのガキたちにもたまに水汲みさせてたが、嫁さんと相談してしばらく外に出ないように言っておかねえと」



「こ、孤児狩り……」



 オアシスまで水汲みに来ていた人たちの会話を聞いたニルヴァが青ざめる。

孤児狩りはその名の通り、親のいない孤児が一人で行動しているところを狙って攫う賊のことだ。



 孤児狩りに遭った子供は大抵、奴隷商人に売り飛ばされて、容姿が良ければ物好きな金持ちの元へ……酷い場合は、使い捨ての労働力として魔物が出現する遺跡で魔石採掘の強制労働をさせられる。



「マナワット……!」



 孤児狩りという言葉を聞いて最悪の可能性を考えたニルヴァは、血眼になってマナワットを探し始めた。

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