第2話【覚悟】

僕は大きいリュックを背負って、周りを見渡した。


「と、都会だ⋯⋯。」


田んぼだらけの田舎から来た僕にとって、すごく大きな街だった。

周りは並べられたように建物があり、整っている道をたくさんの人が歩いている。

僕は地図を握りしめながら、神学園に向かった。


たくさんの人とすれ違いながら、神学園にやっとたどり着くことができた。

神学園は大きな門があり、その先にはもっと大きい庭と校舎があった。

受験者と思われる人が、次々に門を通り抜けていく。

僕はおそるおそる門を通り抜け、みんなが進んでいる方へ向かった。



30人ほどの人数が、大きな庭に集まっていた。

僕は試験がいつ始まるのだろうと、そわそわしていた。


すると、僕のとなりにいた眼鏡をかけた高身長の男の人が声をかけてきた。

「えっと⋯その⋯⋯緊張、してる?」


後ろを見てみたが、その後ろには誰もいなかった。

「ぼ、ぼ、僕、ですか⋯?」

するとメガネの人はこくりと頷いた。

「君、すごい食いしばるような顔してたから。」


メガネの人はふふっと笑った。

僕は恥ずかしくなって、両手で顔を隠した。

「お恥ずかしいです⋯⋯。」



すると、メガネの人が手を差し伸べた。

「⋯俺、五十嵐律いがらしりつって言うんだ。

よろしく⋯!」


僕は、その手をぎゅっと握った。

ふたりとも、にこにこと笑った。


「えっと⋯!

僕は、富山優太とみやまゆうたっていいます⋯!」


「へぇ。なんだか、かわいらしい名前だね!」


僕は、律の声がすごく心地よくて安心した。



そんな話をしていると、周りがざわつき始めた。

「あ、あれって⋯」

「あれが噂の⋯!」


ひとりが土下座をし、他のみんなも次々に土下座し始めた。

律もいつの間にか、僕の隣で土下座していた。

僕もみんなより少し遅れて土下座をした。


僕は目線を上げると、そこには4人の人が現れていた。

僕は、中央にいるのがすぐ鬼堂さんだと気付いた。


「みなさん、顔をあげてください。

私たちは、土下座されるような立場ではありませんから。」

鬼堂さんのとなりにいる女性が、丁寧な口調でそう言った。


すると、緊張が一気に溶けるようにみんな立ち上がった。


丁寧な口調の女性が「それでは、自己紹介をさせていただきます。」と言った。


丁寧な口調の人は、すごく優しそうな緑色の瞳をしていた。

「私は風の神、黄瀬きせまほりと申します。

よろしくお願いいたします。」

まほりさんはそう言って、優しく笑った。


次に、小さな子供が小さな手をあげた。

「はいっ!僕は光の神、叶川太郎かながわたろうだよぉ!

みんな、たくさん仲良くしてね〜!」

太郎くんは、11歳や12歳くらいの子どもだった。

身長は低く、目がぱっちりでかわいらしい。


その次に、鬼堂さんと同じくらいの身長の女性が喋った。

「え⋯えっとー。水の神、渡辺有希わたなべゆうき⋯です⋯!

よ、よろしくね⋯!!」

有希さんは、すごく弱気な感じでもじもじしていた。


そして最後は、鬼堂さんの番。

「⋯俺は火の神、鬼堂咲丸きとうさくまる

まぁ⋯よろしく。」



神様は、僕が思っていた堅苦しいイメージとは違い、少し安心した。

多分、みんなも同じだと思う。


僕はとなりにいる律をちらっと横目で見た。

律は、少し目線が下になっていた。

律はまだ緊張しているのかな、そう思った。



すると、まほりさんが喋りはじめた。

「今日は神学園入学試験にお集まりいただき、ありがとうございます。

試験内容について、説明させていただきます。」


僕は息を呑んだ。


「受験者の合否は、受験者自身に決断していただきます。」


その言葉を聞くと、みんな開いた口が塞がらなかった。


「これから私が言うことに『覚悟』できた人から、手を挙げてください。

手を挙げた人は『合格』ということになります。」


僕はとても驚いた。腰を抜かしそうになった。

合否を自身で決められるなら、みんな合格できるはず。

みんな、それなりの覚悟を持ってここへ来ているのだ。



「一。毎日の鍛錬を一生懸命になって頑張ること。」


僕はこの試験のために、毎日鍛錬を頑張ってきた。

だから僕は、この覚悟はできている。


「ニ。みんなと仲良くし、優しい心を持つこと。」


すると、太郎くんが小さくふふっと笑った。

そして太郎くんは、にやーっとした目で鬼堂さんを見た。


「な、なんだよ⋯」

鬼堂さんはじとーっとした目で太郎くんを見た。


「咲丸はよく喧嘩してるもんねぇ」

「はぁ?!もう一回言ってみろ⋯!!」


太郎くんは、にこにこと笑ったまま「なんでもなぁい」と言って目線をみんなのほうへ戻した。

それを見た僕たちは、柔らかい空気が流れた。


そしていつの間にか、まほりさんは喋り進めていた。

「三。いつも死ぬ覚悟で戦うこと。」


まほりさんがそう言った瞬間、その場が岩のような空気に変わった。

今まで、何人の生徒が死んだのだろうか⋯。

僕は、今まで考えたことのない疑問が頭に浮かんだ。


そうだ、死ぬ覚悟を持たないと人を守ることはできない。

そう僕自身に言い聞かせた。


「四。感情的になりすぎないこと。

五。どんなに辛いことでも乗り越えること。」


まほりは、ひとつ息を吸って「以上です。」と言った。


その後に、有希さんが心配そうな目で受験者たちを見た。

「⋯自分たちはね、普通の人間と同じで魔法なんて使えないんだよ。

なのに、風を操れる人もいれば、光を出せる人もいて、火を放てる人もいる。

それは、すごく頑張ったからなんだよ⋯!」


それに続いていて、鬼堂さんも喋った。

「きっと、お前たちの想像する鍛錬よりもずっと厳しい。

人間のできる範囲を越える過酷なものだ。

それに死神との戦いは、悪夢を見ているように苦しい。

途中で退学する生徒を大勢見てきた。

その生徒は、鍛錬に耐えられなかったり、死神との戦いで死んだ仲間を見て心が折れたからだ。」


僕は『覚悟』というものが、どれだけ大きなものかが分かった。


鬼堂さんが怒鳴りつけるような声で僕たちに言った。

「覚悟のないものは今すぐ帰れ!!!

無駄死にするだけだ!!

どんな思いをして試験にきたのかは知らないが、感情的になって来た甘ったるいやつは今すぐ帰れ!!!」


それを聞いた受験者のほとんどが、どんどん帰っていった。

「お、俺無理⋯。」

「給料いいって聞いたのに、死ぬなら意味ねぇよ⋯。」

「俺も帰る⋯。」

受験者はみるみると減っていった。


それを見た鬼堂さんは舌打ちした。


僕は周りを見渡すと、たった9人にまで減っていた。

だが、となりには律がいたので少し安心できた。


すると、155cmくらいの身長の男の子のような人が、バッと勢いよく手を挙げた。

「はいっ!はる、覚悟あります!!」


それに続いて、他の人達もどんどん手を挙げていった。




⋯兄ちゃんが、僕を守ってくれたように。

鬼堂さんが、死神を追い払ってくれたように。

僕は、もう死神なんかに人生を狂わされる人を見たくない。

僕は、なにがあろうと死神を絶対に許さない。




僕も真っ直ぐに手を挙げた。

そして僕は、神学園入学試験に合格することができたのだった。

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