さなぎ日和

花倉

第1話【僕が】

僕はある日、兄ちゃんとおつかいに少し遠くまででかけていた。

僕が住む場所は田舎で、周りに店はなく田んぼだらけだった。

おつかいの帰り道、僕は兄ちゃんと話をしながら田んぼ道を歩いていた。


優太ゆうた、寒くないのか?寒いなら、上着貸すぞ。」

兄ちゃんは、白い息を吐きながら僕の方を見た。


「ううん、僕は寒くないから大丈夫。それより、今日のご飯なんだと思う?」


すると兄ちゃんは笑った。

「さぁ、なんだろうな。⋯ほら、はやく家に帰ろう!」



兄ちゃんがそう言ったときだ。

瞬きひとつした瞬間。

僕たちの目の前に、仮面をつけた人が突然現れた。

すぐに兄ちゃんは、両手を広げて僕を守ってくれた。

僕は頭が混乱したし、すごく怖くて体に力が入らなかった。

きっと、兄ちゃんもそうだ。


仮面をつけた人が僕たちに聞いた。

「⋯神はどこにいる。」


その瞬間。


すごい速さで、誰かが剣らしきもので振るい、ボォボォと火が仮面の人を包み込んだ。

たった一撃入れただけで、仮面をつけた人は消えていった。


すると、剣を持った男の人は舌打ちをした。

「⋯クソ。逃げられた。」


僕はその言葉を聞いて驚いた。

男の人が、仮面の人をやっつけたのかと思っていた。

けれど本当は、逃げられたのだ。


兄ちゃんは、強く僕を抱きしめた。

「お前は誰だ!!」

兄ちゃんは、剣を持った男の人を強く警戒していた。


男は剣を背中にしまい、優しい眉で僕らを見つめた。

その男はツリ目で、背も高く、18歳くらいにみえた。

そして、腰を抜かしている僕と兄ちゃんの近くでゆっくりと腰を下ろした。


「⋯⋯脅かしてごめんな。

俺はお前らに剣を振るったりなんか、しねぇから安心しろ。

俺は『死神しにがみ』っていう悪い奴らをやっつける仕事をしてるんだ。

お前ら、また死神に会った時は、はやく逃げるんだぞ。」


そう言って、男は僕と兄ちゃんの頭をくしゃくしゃっと撫でて、どこかへ行ってしまった。


僕は兄ちゃんの震えの止まらない手をぎゅっとした。

「⋯守ってくれて、ありがとう。

兄ちゃんはすごいね。」


兄ちゃんはうるうるした目で僕を勢いよく抱きしめた。

「うわーー!!!怖かった⋯!怖かった!!

もう、わけわかんねぇよぉー!」


「ビックリした⋯!急に大声出さないでよ〜!」

「あぁ、ごめんごめん!」


僕たちは、手をしっかりしないで家まで帰った。

家に帰ってから、僕は父ちゃんと母ちゃんに今日のことを伝えた。

信じてもらえないかなと思っていたけれど、あっさりと信じてくれた。


「へぇー!そうかそうか。神様と死神に会ったんだな!

そりゃあすげぇな。」

父ちゃんはにこにこと笑っていた。

「神様はどんな技、使ってたんだ?」


「えっと⋯。男の人が剣を使ってた。

そしたら、周りがボォーって火だらけになってた⋯!」


父さんは、僕の言葉を聞いてまた笑った。

「はは、その神様はきっと火の神様だな。

名前は⋯えっと、なんだっけな〜」

するとお母さんが「鬼堂咲丸きどうさくまるさんですよ。」と教えてくれた。


それから、父さんは僕たちにたくさんのことを教えてくれた。



まず、この星には神様がたくさんいること。

神様と言っても、本当の神様ではなく例えのようなものらしい。


それと反対に、死神もいる。

死神の謎は多いが、死神もたくさんいるらしい。

死神は、容赦なく善人から悪人まで皆殺しにする恐ろしい者だ。


そして神様たちは、学校を開いている。

その学校は『神学園しんがくえん』という名前で、死神と戦えるように生徒たちを神様が育成しているのだ。


僕の家から遠く離れた街にも、4人の神様がいる神学園がある。

その学園には、僕たちを守ってくれた火の神の鬼堂さんもいるらしい。


このことを話してくれた父さんに、僕は「僕も神学園に入りたい。」と言ってみた。

すると、兄ちゃんと母さんは強く反対した。

「だめだ優太!死神に殺されるかもしれないんだぞ!」 

「そう、兄ちゃんの言う通り危険なことなんですよ。」


だが、父さんは相変わらずにこにこ笑っていた。

「いいじゃないか、優太は立派な生徒になれると思うぞ。」


それを聞いた兄ちゃんが、ひどく怒った。

「父さんは分かってない!

死神っていうやつからは、神様への殺気をすごく感じた⋯!!

優太が神様の近くへ行くなんて、危なすぎる!!」


兄ちゃんは息を荒げて父さんの顔を睨んだ。

父さんは、笑うのをやめて言った。

「優太は、なんで神学園の生徒になりたいんだ。」


「ぼ、僕は⋯。

兄ちゃんや鬼堂さんみたいになりたい。」


僕がそう言ったとき、兄ちゃんはハッとした顔になっていた。


「それに、僕は死神に殺される人を見たくない。

僕、死神が目の前に現れたとき死ぬかもしれないって思ったんだ。

だけど今、生きている。生きてることって奇跡なんだ。

なのに死神は、その奇跡を踏み潰しているんだ。

だから僕は、死神を許せないんだ⋯!!」










桜が咲き誇る3月の神学園入学試験の日。

僕はひとり、神学園のある街へやってきたのだった。

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