シーン2 追放

 朝まだき。


 まだ暗い東の空に向かって、王宮の大扉が開かれた。


 女王がおわすこの城の中心、謁見えっけんの間にユエはいた。ひのき張りの床に膝をつき、打刀うちがたなを一振り、手のひらに揃えて、頭より高く掲げる。


「カガリ」


 女王の冷たくつややかな声が呼んだのは、ユエの名ではない。


 カガリ――ユエの上官は刀を受け取り、なにも言わない。


「ユエよ」


 一段高い御簾みすの向こう、女王の座で、わずかな身じろぎの音がした。


「そなたは命に背いた。よって、わらわの近衛の任を解く。一両日以降は国内に留まれば斬首とする」


 つまり国外追放であり、故郷に戻れば死罪。


「寛大なご処置に感謝いたします」


 本心だった。


 数日前の夜、ユエはカガリの命令に背き、身代わりの少女を殺さなかった。


 振り下ろした刀は耳をろうする金属音と共に、少女の足を繋ぎ留める鎖を切った。


 その場で斬られてもおかしくなかったのに、カガリは女王に事の次第を報告するだけに留めたのだ。


 それが温情だったのか、単に女王に判断を任せたのかはわからない。


 だが、取り返しのつかないことをしてしまった責任は、取らなければならないのだ。


「下がってよい。……今までの勤め、大儀であった」


 声が震えているのは、寒さのせいではないだろう。


 ユエは、無理矢理に満足げな笑みをつくる。せめて彼女が罪悪感をいだかないように。


 彼女の名はツクヨミ。


 この国の女王、ユエが守らねばならないはずの人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る