「かめむし」

秋川すすき

第1話

「私ね、そういう人”かめむし”くらい嫌いなんだ。」




なんか毎日ぼんやりしている。

どこから人が湧いてくるか分からない、満員電車。

いつものコンビニで前に並んでる、

タバコ臭い50代くらいのおじさん。

(コーヒーと17番のタバコを必ず買う)

毎朝挨拶を返してくれない、隣のシマの怖い課長。

毎週毎週同じ名刺を渡してくる取引先の担当。

いつも昼飯の席が隣になる、話したことのない同僚。


なんか、毎日ぼんやりしている。

定例的な内容の決まっている会議。

毎日同じ内容で怒られている後輩。

定時になった瞬間ダッシュする、ヒゲの鈴木さん。

(勤務時間中もよくトイレでサボっている)


なんか、毎日、ぼんやりしている。

屍のように起き上がり、

まるで送検される容疑者のような面持ちで出社し、

高野豆腐のような味のしない、

存在感のない姿でとりあえず仕事をする。

上司には常にネチネチ言われる。

また干涸び具合が良くなる。

19時過ぎには帰れるから、

ブラック企業ではないんだけど。


蓬田 宗佑。26歳。入社3年目。役職なし。

新入社員フィルターは随分前に卒業済み。

だから上司にネチネチ言われる。

地元の大学を卒業して、上京してみたものの、

なんかやっぱり、しっくりこない。

コーヒー片手に出社して、

ギラギラとしたオーラと共に、

テキパキとタスクを終わらせていく。

定時に上がって、同期と中目黒でディナー。

一軒目で、「彼女待ってるから!ごめん!」と、

同棲している、1LDKのアパートに帰る—————


まあ、どれも当てはまんないんだけど。

片や、緑茶買ってるし。

ギラギラじゃなくて、高野豆腐だし。

(高野豆腐ってなんだよ)


そもそも同期と仲良くないし、

中目黒行ったことないし… ワンルームだし。


「俺の人生、これでええんやっけ…」

春とヒコーキ_ぐんぴぃの声が聞こえてくる。

でも、ひとつだけ当てはまる。彼女はいるぞ!

ぐんぴぃとボクは違うんだから…

あ、そんなことより書類終わらせないと。

今日もまた、雑念を振り払って、パソコンに向かう。


ここから、ボクの冴えない日々に光が差すらしい。

全く想像はつかないけど。


「蓬田、ちょっといいか?」——————————













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