log_03

配信をやると満たされるが、同時に得体の知れない感情が湧き上がることに気がついた。

だから配信を3日ほどやめている。これはこれで落ち着くが、心の奥で何かが求めている。

多分承認の渇望、わかっているけど蓋をしている。配信をやめるという形で。


ピコン


新規のコメントの通知音が聞こえた気がした。配信をしていないのに。

ベッド上でどうしようもなさを感じながら好きピの投稿を確認するけど、他の女と絡んでいる。

これについて問いただしても重い女として思われるだけだ。苦虫を噛み潰したような表情でその事実に蓋をする。


本当に自分は何をしているのだろう。仕事をしている時は本当に無だ。

今日は夜勤明けの次の日、体が重いから何もする気が起きない。昼に起きて配信をしようとして、やめた。

自室の静けさがノイズのように聞こえてくる。電源は入っているが線が繋がれないスピーカーから何かが鳴る。まるで配信をしている時に発言せず、周りの環境音が入るような音がする。

この事実に気がついた時にもドス黒い感情が心の中にふと浮かんだ。見られることに囚われている。

見られること以外に感情を得る方法を忘れてしまった。


ふと部屋の鏡の反射に人影が映ったような気がした。自分が写っただけだが、見られている感覚があった。

画面を消したスマホの反射に映る自分にも見られているような気がした。

何か得体の知れない恐怖を感じたところで、横わっていた体を起こして、ベットに座る。

得体の知れない「それ」は体を伝って地面に返っていったような気がする。


実は「好きピ」からラインが来ているが、未読で三日放置している。

返事をすると、終わってしまう気がするから。でも実際、返事をしなかったら彼は他のことをするだけというのも分かっている。

自分で選択することが億劫だ。全て流行りのAIがやってくれればいいのにと冗談で思う。

通知を見る。


「これめっちゃおもろい」

「写真が送信」


何かを送ってきたのだろう。その時は配信してたから初見の投稿をスクショして送ってきたとか、多分そんなのだろうと思う。

それも見ずに放置している。


再びベッドに横たわった。体が重い。

ベッドの上で、ただ時間が過ぎていく。

何かの拍子にスマホのマイクが赤く点滅しているのに気づいた。

録音アプリを開くと、「記録中」の表示。

いつからだろう。指が触れた記憶はない。


再生してみる。

音が鳴る。

自分の息が混じったノイズ。

遠くで人の話し声のような音が一瞬混じる。

——たぶん、どこかの生活音。

でも、どこかで聞いたような、懐かしい声にも聞こえた。


私はそのファイルに名前をつける。

「log_03」

削除しようとして、やめた。

この音の中に、まだ“誰か”がいる気がして、考えるのをやめた。


ベッドにスマホを伏せたまま、カーテンを開ける。

外は夕方。

近くの公園から子供の笑い声が聞こえてくる。

それを聞いていたら、なぜか胸がざわついた。

笑い声の中に、配信で聞いたコメントの声が混じっている気がした。

「声いいですね」「また来ました」

錯覚だ。

けれど、耳を塞いでも止まらなかった。


どうにかして静かにしたくて、イヤホンを耳に差し込んだ。

何も再生していないのに、スピーカーのような低い音が鳴っていた。

地鳴りにも似ている。

その音を聞いていると、自分の身体の輪郭が曖昧になるような気がした。

皮膚の外側と内側が、同じノイズで満たされていく。


そう思ったところで、眠気のような重さが襲ってくる。

何度寝になるだろうか。

瞼の裏で、誰かがこちらを見ている気がした。

それでも眠りたかった。

眠ることだけが、何も考えなくて済む唯一の方法だった。

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