学園うらの書架

am129

プロローグ

「ハクマっ!!ちょっときてー!」

「俺は仕事で忙しい」

「これも仕事のうちでしょー?ねぇちょっとー!生徒会員のハクマくんー!朽木さんが!!」

数メートル先で、クラスメイトの少女・ゆずが焦ったように彼を呼ぶ。

呼ばれ続ける生徒会役員・ハクマは、数日連続の事に僅かに眉を顰めた。

職務真っ当がモットーの彼を、こうもさせた”朽木”という人物。

「ゆず、もう慣れただろう。わざわざ俺を呼ばなくても…」

「ぶら下がってるの!危ないよっ?!」

ゆずの視線の先、言葉通りぶら下がっている、生徒と思わしき塊。

深緑のローブがゆらゆらと揺れている。

この学園の校舎は、オープンコリドー型である。

その二階廊下の淵に捕まる、ペールブロンドのミドルヘアの少女がいた。

朽木あのん。

三日前にエルレス学園に入学し、その三日でその異質さを知らしめた女子生徒。

落ち着いた紅鳶色の瞳をした彼女は、一見、真面目な優等生であった。

制服もきちんと着こなし、所作が優雅で、この元貴族校に相応しい転校生。

のはずだったのだが。

その印象は、初日から壊される。

彼女の奇行は、止まることを知らなかった。

悉く悪戯を実行、自分の身を危険に晒す行為(屋根の上で昼食を広げる)などを繰り返し、生徒会役員の中で一番真面目だと謳われたハクマを、たったの三日で崩した。

彼にとって、生徒の風紀は皆によって守られるもの、乱すものは正されて当然の存在だ。

だが彼女とくれば、教員に注意されそうになるとしれっと躱し、ハクマや他の生徒会のメンツが呼ばれた場合は続行する。

嫌がらせとしか思えない現状だった。そして、それは止まることがない。

「降りてこい」

ドスのきいた声で、彼は声をかけた。

「え〜この高さでも、着地に失敗すれば骨折しちゃうよぉ!」

三メートルほどの高さはあるが、彼女が身体能力に優れていないわけがない。

骨折する事態になるものか。

この三日で、ハクマは嫌というほど知らされていた。

「ならば何故そこにいる?怪我したいのか?」

気がつけばゆずは、次のクラスへ早々と向かっていた。ハクマは顰めっ面を耐えようとするも、すでに九割型耐えれていない。

「いやね、筆箱が風に飛ばされたから取ろうと、」

「どこの世界の筆箱だ?風に飛ばされるほどのものがあるか」

ハクマが一歩踏み出せば、あのんはあーっとわざとらしく声を上げた。

「せっかくの芯が!折ったね?!折ったよ貴重な貴重な資源を!はい、ハクマ君これは君の責任だ。今日一日私に鉛筆貸して」

どうやら廊下にシャーペンの芯が落ちていたらしい。

「普通に、素直に、言えないのか?!筆箱を忘れたので貸してくださいと!」

「綺麗な白髪が台無しだよ、ハクマ君。そんなに振り乱さないで。ところでどうすればいいかな?」

「遅刻すればいいのではないか?」

しろかみ、について彼女がネガティブな態度を取らなかったことだけは、ハクマの機嫌を保たせた。

貶しでもした日には、口を聞いてもらえなくなる。

数人の生徒が経験済みだ。

そんな事つゆとも知らないあのんは、そのまま口を開く。

「先生に言います。生徒会役員、しかも風紀委員長のハクマ君が遅刻しろと提案してきたので、従うべきなのだろうと、そうすることにしました。私の判断ではないです」

「……」

ああ言えばこう言う。

本当に遅刻しそうで、ハクマはこの迷惑魔を置いていこうと足を動かした。

「あれ、困ってる生徒を置いていくの?こういう小さい恩は、売っておいた方が良いよ?」

「さんざん喋り倒す余裕はあるようだからな、自分でどうにかしろ」

「怪我しても良いの?」

態と反応するような言葉を放つ。

確かに無傷で着地はできないかもしれないが。

そもそも、その状況がおかしいのだ。

ハクマは諦めて打開策を考え始めた。

「しょうがないなぁ〜鉛筆貸してくれたら許そう」

「は?俺は何もした覚えはないのだが?」

次の瞬間には、彼女は目の前に見事に戻ってきた。

瞬きの間に、腕力で登り上げた。

そして、手すりを超えて中へ戻った。

スカートの埃をパタパタと払い、視線とハクマへと移す。

人を痛ぶるような赤くも冷たい視線が、ハクマの肌に刺さる。

あのんはニコニコとした表情で、それを続けた。

(俺は、何のためにここに止まったのか)

「じゃあね〜教室で。鉛筆忘れないでよ」

どの口が言う、と言う言葉は飲み込んで、ハクマも次の教室へ向かった。

授業開始まであと1分。

…遅刻確定である。

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