魔物と暮らしていた呪われ幼女は、ドラゴンを殺す旅に出る

白い彗星

第一章 異世界に生まれ落ちた幼女は魔物と暮らす

第?話 復讐を誓った幼女



 ――――――



「……ここもハズレか」


 人里離れた、山奥の洞窟。大きなその空洞の中に 、声が響く。

 その中に、一人の少女がポツンと立っていた。


 いや、少女というにはあまりに幼い。年齢にして、五歳程度……あまりに小さな女の子だった。

 なぜこんな殺風景な所に、幼い女の子が立っているのか……そんなの、理由は一つだ。彼女の探し物がここにあるから。


 いや……あるかも"しれなかった"からだ。結果は、先ほども言ったようにハズレ。


『……のようだな。とはいえ、気を落とさないように。長い旅になると、覚悟していたはずだ』


「うん、大丈夫」


 彼女に語りかけ、励ましてくれる声があった。だが、ここには彼女しかいない。

 ……少なくとも、ぱっと見には。


 声の正体は、彼女の影の中からだ。彼女の小さな影の中に、声の主が入っている。というか潜んでいる。

 これは魔法の一種だ。影を利用した魔法。


「うん、絶対諦めないよ。"あいつ"を見つけるまで」


 ハズレである以上、もうこの場に留まる意味はない。

 彼女は振り向き、洞窟を後にする。次は、どこへ行こう。


 彼女が探しているもの……それを求めて、長い旅をしてきた。もし一人だったら、挫けてしまっていたかもしれない。

 でも、ここにいるのは彼女だけじゃない。"彼"はいつも影の中に……側にいる。


 ……それに……



『カリア……みんな……いやぁああああああ!!!』



 ……"あの時"のことを思い出せば、いくらでも活力が湧いてくる。

 絶対にあいつを許してはいけない、許すなと心の奥が叫びだす。


 そう、絶対見つけるんだ。見つけてこの手で……


「……!」


『エリー!』


「わかってる」


 足を止めたのと、影の中の彼が声を上げたのは同時だった。


 この気配……! 影の声と重なり、エリーと呼ばれた彼女は異変を察し周囲を警戒する。

 同時に手にするのは、短剣。身長も手足も短いエリーには、小回りの利くこの武器が合っている。いや、もっと深い意味で、この武器を愛用している。


 振り向くと、そこには……大きなムカデのようなモンスターがいた。


「うぇっ、気持ち悪い」


 ムカデ、ムカデだ。それも、人を一口で丸呑みにしてしまえるのではないかと思えるほどの大きなムカデ。

 エリーはその姿に、生理的な嫌悪を覚える。


『エリー、俺がやろうか?』


「……ううん、大丈夫。ありがとう」


 エリーを気遣っての言葉を嬉しく思いながら、しかしエリーは短剣を構えた。

 ギラリと銀色に光る、鋭い刀身。切れ味については、保証済みだ。


 暫しの睨み合い……先に動いたのはムカデの方だ。


「ジュウウウ……!」


「嫌な声!」


 突進してくるそれを、エリーはジャンプして避ける。その跳躍力は凄まじいが、そこに風属性の魔術を組み合わせることでさらなる跳躍を得る。

 さらにムカデの頭を踏み台に、壁に向かって飛ぶ。着地した壁を水平に走って……ムカデの遥か頭上へ。


 その場から飛び、くるくると回る身体……そのバランスを正す。

 落下速度を加えながら、エリーは短剣を握る手に力を入れる。


「やぁああああ!!」



 ザシュゥウウウウ!



 ムカデの額に、両手で握りしめた短剣を差し込む。エリーの軽い身体では、本来であれば剣も深くは刺さらない。

 だがこの剣の切れ味は一級。おまけに上空からの一撃はムカデに深く突き刺さる。


 さらに重力落下に従い、短剣はムカデの身体を下に向かって裂いていく。

 ムカデは断末魔を上げながらも、その身体にはまっすぐな一閃が刻まれた。


 着地し、ふっと一息。その際、ムカデの身体から噴出した血がエリーの白い髪を緑色に染めていく。

 割れたムカデがドスン……と地面へと沈む。


「ふぅ」


『お疲れ。しかし派手にやったな』


「もう少しスマートにできればいいんだけどね。というか、こいつの血は緑なんだ……なんか気持ち悪い……」


 つい夢中になってしまったが、血が髪につくとにおいは残るし放っておいたら固まるし、いいことなしだ。

 一刻も早く、水場で身体を洗いたいところだが……


 ここは洞窟だし、近くに水場はない。

 ……仕方ない。とりあえずと考え直すと、刀身の血を払い、そして拭う。


「……ふぅ」


 エリーは再び息を吐き、意識を集中させる。大気中に流れる魔力に働きかけ、その力を魔術へと昇華する。

 水属性の魔術と風属性の魔術を組み合わせ、血のついた髪を重点的に洗い流す。


 おかげで、血はすっかり流れてしまった。すっきりだ。


『相変わらず便利だな、魔術というのは』


「だねー。私としても、いろいろ助かってるよ」


 魔術……いや魔力。それが、"この世界"では当たり前のように存在している。

 そして本来、魔術というものは人間に扱うことはできない。エリーはしかし、魔術を駆使している。


 その理由は、詳しくはわかっていない。おそらく、彼女の特殊な出自に関係している。


「はぁ、お腹すいた。なにかおいしいもの食べたい、いやおいしいもの買うお金がほしい」


『これを殺した後でよく腹が空くものだな。

 ……人間の冒険者ギルドに行けば、こういったモンスターは討伐依頼なんかがあるんじゃないか? これがその対象なら、これを討伐したエリーに褒賞が払われるだろ』


「うーん、それはそうかもしれないんだけど……討伐依頼だと、依頼を受けてないといけないから。依頼を受けてない私が倒したところで、お金はもらえないよ」



 くぎゅるるる……



「……とりあえず、なんか食べないと死んじゃう。お金がないなら、現地調達しかないよ」


 もはや何度目かのため息を漏らし、エリーは死したムカデを見つめた。


『……まさか、こいつを食うのか?』


「ビジュアル最悪だけど、背に腹は代えられない」


 こんな見た目のモンスターだが、なにもこういった食事は初めてというわけではない。いい加減慣れも出てきた頃だ。

 彼女がこんな生活をしているのも、全ては……ある目的のためだ。


 その目的を思い出せばこそ、心の中に抑え込んでいた憎しみが湧き上がってくる。


「絶対……殺してやる……!」


 ……エリーの家族を奪った、ドラゴン。そいつを見つけ出し、この手で殺すまで。エリーは諦めるわけにはいかない。

 ドラゴンを探し出し、殺すこと。それこそがエリーの目的。


 ドラゴンとは、この世界の頂点に君臨するとされる存在だ。挑むどころか、居所さえもわからない。

 本当に存在するのかどうかも、この時代では眉唾ものだ。存在しているのかいないのか……それは生き物というより、神様と言ったほうが近いかもしれない。


 ……だが、エリーは知っている。ドラゴンが存在していると。凶悪な存在だと。

 ドラゴンが自身の家族を、故郷を奪った憎き存在だと。


 そう、"この世界"に生まれ落ちて、あたたかく育ててくれた……エリーにとって大切な家族を奪ったあいつを、この手で。

 絶対に殺してやると、エリーは誓ったのだ。あの時に……


 ――――――



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