第15話 安らぎの時間

バルド様と分かれ、俺はオルトスのブラッシングをする。


そして暫くすると、サーラに連れられたセレナ様がやってきた。


その格好は青のワンピース姿で、まさしく可憐な美少女といったところだ。


特に日差しによって輝く銀髪が美しい。


「おまたせしてごめんなさい」


「いや、気にしないでくれ。ところで……相変わらず、綺麗な銀髪だな」


「……へっ? そ、そうでしょうか……」


照れ臭いがどうにか言葉にしたが、やはりそういう反応か。

確か彼女は自分の銀髪を好きではなく、王太子にも褒められたことがないとかだったはず。

この世界においては金髪なのが一番とされているらしい。

彼女がここにいる間に俺のすべきことの一つは……自己肯定感を高めることだろう。

推しでもある女性が、自分を卑下してるなど許せん。


「ああ、陽の光が当たってより綺麗だ」


「っ……あ、ありがとうございます」


「ん、本当に綺麗」


「まあ、サーラさんまで……」


セレナ様は少し照れつつも嬉しそうだ。

すると、こそっとサーラが親指を立ててきた。

どうやら、正解だったらしい。

ちなみに本当はセレナ様と崇めたいので、心の中ではそう呼ぶことにした。


「さて、とりあえず挨拶をするか。オルトス、この人はセレナという。暫くは屋敷に住むので、覚えておいてくれ」


「ブルルッ!」


「セレナ、見た目は怖いかもしれないが大人しい子なので撫でてやってくれるか?」


オルトスが怖がらせないように姿勢を低くしながらセレナ様に近づく。

セレナ様は少し腰が引けていたが、オルトスがじっとしていると恐る恐る手を伸ばす。


「わぁ……遠目からも思いましたが、物凄く立派な馬ですね」


「オルトスは黒王馬と呼ばれる種族だからな」


「あの伝説の馬の血を……なるほど、納得です。確か、建国記にも出てくる馬ですよね?」


「そうらしい。なんでも、初代国王を支えた騎士が乗っていたとか。其の者が一騎当千の活躍をして、建国に導いたとされている」


「そんな功績があったのに、未だに国境を守り続ける辺境伯家となり……改めてご立派ですね。王都にいる者に代わって、お礼を言わせてください」


そう言い、律儀に頭を下げる。

俺達一族は見返りなどは求めていないが、それでも感謝されると嬉しい。

そして、俺は……彼女のこういうところが好きだった。

すると、サーラが手を叩く。


「ん、二人とも仲が良いのは良いこと。でも、立ち話ばかりしてるなら出発しよ」


「な、仲が良いだなんて……」


「そうだ、彼女に失礼だぞ。だが、確かにそうか。では、予定通り領内を散策するとしよ

う」


すると、何故かサーラが溜息をつく。

セレナ様もぽかんとしている。

終いにはオルトスに鼻で笑われた気がする……解せぬ。



その後、サーラに見送られて屋敷を出て行く。

俺とセレナ様は並んで歩き、その後ろをパカパカとオルトスがついてくる。


「アイク、オルトス君は手綱も握らなくて良いのですか?」


「ああ、こいつは賢いんでな。何より、束縛を嫌う」


「確かに威風堂々って感じです」


「ブルルッ」


褒められて嬉しいのか、オルトスがセレナに頭を擦り付ける。

相変わらず女に弱いヤツめ……羨ましくなんかないぞ。


「ふふ、ありがとう」


「全く……さて、何処から行く?」


「自然体の人々の暮らしを見て見たいです」


「ではぐるっと回ってから商店街に行くとしよう」


そのまま屋敷を出て、田畑が広がる道を歩いていく。

遠目には人々が仕事をしてる風景があり、俺に気づくと会釈をしてくる。

そんな中、時折風が吹き、彼女の銀髪がなびくのが目に入った。

それに見惚れていると、彼女と目が合う。


「風が気持ちいい……こっちは静かで良いですね」


「まあ、田舎だからな」


「そんなこと……はあるかも」


そう言い、クスクスと笑う。

その姿に思わず息が止まりそうになる。

澄まし顔からの破顔は反則だろ。


「っ……」


「あっ! じょ、冗談ですよ!?」


「わ、わかってる。そうか、冗談とか言うのだな」


「……今、自分でも驚きました……変ですか?」


「いや、いいと思う」


おそらく、今までのしがらみから解放されたのだろう。

もしかしたら、本来はこのような性格だったのかもしれない。

どちらにしろ、魅力的なことに違いはない。


「ほっ……こんなゆっくりな時間は久しぶりかもしれないです」


「大丈夫だ、これからは幾らでも出来る。気がすむまで、領地にいて良い」


「あ、ありがとうございます……学校とかどうしようかな」


彼女はまだ一年生で、今は長い春休みだったか。

本来は学校も退学になり、公爵家に嫁入りとなる。

ならば俺としては、彼女の望むようにしよう。


「行きたいのであれば行くのも良い」


「確かにまだまだ学びたいことは沢山……でも、その場合彼らに会うのですね」


「言いたい奴には言わせとけば良い。もしうるさいようなら、俺がぶっ飛ばす」


「ふふ、アイクも冗談を言うのですね」


すると、セレナ様が目を丸くした後に微笑む。


どうやら冗談と思われたが、俺としては本音だ。


彼女を傷つけるなら容赦はしない。


学校か……もしもの時のことを考えておくか。












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