第14話 ボタンの掛け違い?

お昼を終えてから、めちゃくちゃ今更なことに気づく。


そうだ、すっかり忘れていた。


セレナ様が着替えをするというので、今のうちに済ませておくか。


「オイゲン、ちょっと良いか?」


「何でしょう?」


「少し見てもらいたい奴がいるから来てくれ」


俺はオイゲンを連れ屋敷を出て、門の前をウロウロする。

すると、エレンが駆け寄ってきた。


「アレク様!」


「すまない、待たせたなエレン」


「いえ! 色々と込み入った話があったのでしょう」


……ただ、忘れていただけなのだが。

というか、セレナの破壊力が凄すぎた。


「う、うむ……それで、俺に仕えたいという話だったか?」


「はい! 貴方様のような騎士になりたいのです! ……俺には無理でしょうか?」


「前に俺が言ったことを覚えているか?」


「確か……やるかやらないかですね」


「大事なのはそれだ。無理だと思えば無理だし、できると思えば……叶うとは言えん。ただ、できると思わずに叶わぬことはないと思っている」


俺とて、今のようになるには苦労してきたつもりだ。

まだまだ未熟だし、とても偉そうなことは言えないが。

それでも、自分がしてきた努力は無駄じゃない。

少しずつでも、自分が望む姿に近づけていると思っている。

そう、憧れだった父上のような。


「……それでも、アイク様は邁進しておるのですね?」


「ああ、日々の中で努力はしている。と言っても、オイゲンからすれば甘いと言われるが」


「ほほ、貴方様は戦い以外はからっきしですから」


「う、うむ、それについては今後の課題だ」


「ならば、僕はもっと努力をしないとですね……どうか雇ってください! 雑用でも何でもしますので!」


その目には、確かな真剣さがあった。

俺はオイゲンに目配せをして確認する。

すると、オイゲンの方もエレンに好感を持ったようだ。


「わかった、お主を雇うとしよう。まずは雑用から始めてもらい、同時に鍛錬を積んでもらう。戦場に出せるかはわからないが、それはお主の努力次第だ」


「ありがとうございます! 僕、頑張ります!」


「ああ、期待している。オイゲン、後は任せて良いか?」


「はい、お任せください。それでは、給金を含めてお話をしますよ」


「よ、よろしくお願いします!」


「ほほ、元気でよろしい」


ひとまず安心し、少し遅れて俺も屋敷に戻る。

すると、玄関近くでバルド様と出くわす。


「アイク殿、少し良いだろうか?」


「ええ、もちろんです。立ち話もあれなんで、外に行きましょう」


その真剣な表情から、出来れば人に聞かせたくない類と見た。

バルド様は頷き、俺の後についてくる。

そのまま屋敷の端にあるベンチに並んで座る。


「ここなら聞かれる心配はありません」


「お気遣いに感謝するよ。実は、帰りについて迷っていてね」


「予定ではどのような感じだったのですか?」


「三日ほど滞在させてもらって、私だけ帰るつもりだった。ただ、すぐに帰った方が良いと思い始めてね」


すぐに帰る理由……そうか、その可能性もあるのか。

あのクズが動くという可能性が。


「もしや、奥方様のご心配を?」


「流石はアイク殿だね。ああ、セレナには心配をかけると思って黙っていたのだが……あっちにも手が回っていたらと思うと」


「それがいいかと。しかし、すぐには帰れない訳があるのですね?」


「その通りだ。セレナに治してもらったとはいえ、うちの兵士達も体力が戻ってない。それに、帰りも襲われるかと思うとね」


回復魔法は万能ではない。

傷そのものは癒すが、体力はまた別の話だ。

そうなると……これが一番か。


「俺の兵をお貸しいたします。北の国境を守り抜く精鋭揃いですのでご安心を」


「ありがたいが良いのか?」


「この俺がいる限り、奴らが国境を越えることはないですから」


「ははっ! 力強い言葉だ! ……では、すまんが貸してもらおう」


「それでは、すぐに手配をいたします。明日の朝までには用意しますので、今日のところはゆっくりなさってください」


「うむ、ありがたく泊まらせてもらうとしよう……しかし、何故そうまでしてうちを助けてくれるのだ? 騎士道というだけでは説明がつかない気がするのだ」


一転して、少し怪訝な表情になる。

まあ、それも無理はない話だ。

理由のない善意ほど怖いものはないと、前世の経験からも知っている。


「そうですね……実は、以前からセレナ様のことは知っていたのです」


「ほう……それはそのように?」


「噂程度と、王都に行った際に見かけたくらいですが……凛々しく真面目な方で、民に寄り添える方だとお聞きしておりました。そんな素晴らしい女性が不幸なるなど、騎士として……いえ、1人の男して見過ごすわけにはいきません」


ゲームでも彼女は間違ったことは一切言ってなかった。

確かに言い方や態度に問題はあったかもしれないが、きちんと言ってくれる人というのは有難い存在だ。

前世でアラサーまで生きてきた俺には、それがよくわかる。

間違っても、あんなに目に遭っていい方ではない。


「なんと、娘のことをそこまで……アイク殿、感謝するよ。私達の所為で娘を不幸にするところだったが、君が救ってくれた」


「いえ、大したことはしてません。とりあえず、こちらにいる間はセレナ様の心配は無用——何が来ようと蹴散らすゆえに」


すると、バルド様が黙って頭を下げる。


これは誠意だと思い、正すことなく受け入れることにした。


彼女が幸せを見つけられるまで、俺が守り抜いてみせようではないか。


それが真の推しってものだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る