第5話 長い夏
カラオケから数日、時々タバコを吸ったことを後悔したり、でも、1ミリなら吸えるんじゃないか、と考えながら、でも自分で買う勇気もなく、ダラダラと夏休みを過ごしていた。そろそろ宿題やらないと夏休み明けのテストがヤバイ。
えみからの連絡。
きょう、お姉ちゃんもいないし、泊まりこない?
行くー!
同じ中学だったから家も近い。すぐに向かうことにした。
えみんち行くわ〜と言うと、ママはしぶしぶ送り出してくれた。えみの中学時代のやんちゃぶりと、えみのお母さんのうわさを知ってか知らずか、ママはえみをあまりよく思っていない。
えみの家に入ると、キャミにショーパンの部屋着のえみがいた。チューハイを飲んでいたらしく、顔が赤くて目がややトロンとしている。
「やほー!まあ飲も?コンビニでなんか買うか!」
当たり前のようにお酒を飲み、勧めてくるえみにビビってしまった。高校生になってから飲んでいるのかな?
わたしはお酒、飲んだことないけど、「やっぱ、何だかんだ優等生だよね?」とか、「まじで!?偉い!」とか言われるのももう、嫌だった。
「そうだねお菓子も食べたいし」
コンビニに着く。えみは「バイト代あるし奢るわ」と1つのかごでそれぞれ自由に飲みたいものを入れていくことになった。
えみがバンバンかごに入れている。チューハイかな?
私も平然を装い選ぼうとするけど、どうしようか。
見抜いたのかえみがすかさず
「酒じゃなくてもいいし、無理しなくていいよ」とえみ。
「や、あんま飲まないけど飲みたい。どれにしようかな」
「そう?ほろよい買っとくか。まあ私がテキトーにいれたからさ」
レジでえみがタバコの番号を言っている。当たり前のように年齢確認を通り抜けていた。
えみがすべて奢ってくれて、やっぱり中学時代から急に大人みたいで寂しい。
わたしの高校生活とは違って、えみが眩しい。
コンビニを出ると夕方なのにまだ全然むわっと暑い。
えみがニヤニヤしながら、
「オプション買ったから」
一瞬なんのことかと思ったが、
「1ミリなら吸えるかもよ?」
「え、タバコ!?わたし向いてなさそうだったのに」
「大丈夫だって。そこまではむせてなかったよ?」
「そうかな…」
そこまでむせてなかったんだわたし?
家についていつ吸うのかそわそわしていたけど、自分から言い出すのもなと思い、とりあえずホラー動画みながらほろよいをちびちび飲む。ちょっと苦いけど、なんで大人ってお酒飲むんだろ。
えみはお酒のせいかテンションが上がっていて、ホラー動画に楽しそうにツッコミを入れている。
急にタバコに手を伸ばして一瞬で火をつけて吸い始める。
鮮やかで見惚れていると、えみが、あ、そうだそうだとコンビニの袋を探している。
「はい!舞のぶん」
「え、大丈夫かなー」
「大丈夫大丈夫!」
えみ、酔ってるな多分。
人生2本目のタバコに火をつける。
吸いながらつけて、最初はふかして、ゆっくり深呼吸みたいにゆっくり吸い込んでちょっと息とめて吐く…?
肺がスゥッと冷たい。
はぁ、、、、、
やっぱ苦いな!
これを毎日吸うとか無理だな。
「え、吸えてんじゃん舞!実はこないだから吸ってた?笑」
「なわけないよ笑」
深呼吸するように吸い、
はぁ、、、、
ため息交じりに吐いて、
また吸う、
クラクラフワフワする
「クラクラした」
「ヤニクラじゃない?もう肺に入れれてるっぽいね。カプセルかんだら?」
「あ、忘れてた」
やっぱりカプセルはうまく潰せないけど、甘い味が広がる。苦いけどこれがあると助かるな…
「灰はさぁ指ではじくとほら、落ちるよっ」
「うん…あ、ほんとだ」
また吸うけど苦くなってきた。手も熱い。
「ウケるタバコ短いよ笑 舞はまっちゃった!?笑」
「ハマらないよ笑!でもクラクラしたのわかったよ」
「これあげるし、これ吸いたい時吸っていいよ、あんまり置いとくと湿気るから、はやめに吸っちゃって」
ライターと一箱貰ってしまった。
え、吸えてたかな!?もう一回ヤニクラ確かめたい。
あまり飲んでいないつもりだったけど、お酒で酔った勢いでリミッターが外れていたのかもしれない。お酒もタバコももう、どうでもいいか、と思い始めていた。
その後もえみにつきあい、お酒を飲みつつ夜中じゅう、もらったタバコをときどき吸ってはクラクラして気づいたら寝ていた。
「朝のタバコが最高なんだよ」
えみは朝から吸うけどわたしはなんだか気持ち悪い。お酒のせいらしい。
えみのバイトがあり解散することになった。
身体中タバコくさい。シャワーを借りてファブリーズしまくる。
「この残り吸ってよちゃんと。しけるからなるべくすぐ。うちのうら、吸いに来ていいよ笑」
「ホントに!わかった」
と言いつつ、数日は吸うのをためらって吸わなかった。
でも、一度塾の帰りにえみから連絡が来て寄ってから、なんとなく塾帰りにタバコを吸うのが日課になりつつある。
夏休み終わる頃には、塾で勉強して来るね、といって、
えみの家で、タバコを吸ったり、ときどきお酒を飲むようになっていた。 ときどきえみの友達、さらにその友達もいてなんとなく友達になっていた。
えみが高校に入ってから、もうえみのお母さんは付き合っている男の人のところからほとんど戻らなくなっているようだった。
課題は出す必要もないから、もうテストが悪かろうと別に大したことじゃない。
えみにもらったタバコもなくなって、自分でコンビニで買ってきたけど、毎日吸うようになっている。
私が吸うとえみが、舞はやっぱすごい!タバコも慣れるの早いんじゃん!と言う。えみのペースにつられて吸っている。
家で吸えないでしょ?わたし家いなくてもここ、外から見えないから吸いにおいでよ、と言ってくれて、さすがに行くことはないと思っていたのにとうとう我慢できずに使わせてもらっている。
一度、えみのママと鉢合わせたけどえみのママは怒るどころか、いつでも来てね、えみと遊んでやって、と言われて驚いたけど、ほかに吸える場所もないしありがたく使わせてもらっている。
夏休み最終日、さすがに勉強しようと思い自習室に行くはずが、タバコを吸いたいな、とだめだと言い聞かせつつも自転車の方向がえみんちに向かっている。
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます