第4話 沈む街のノイズ

【1】渋谷・高架下/夜


警察の規制線の外。

雨の匂い。

焦げたような異臭。

青いビニールシートの下から、煙が細く上がっていた。


刑事

「身元不明。若い男。焼かれてる。」


遠巻きに、フードを被った少年・レンが立っている。

目を逸らせない。


その後ろから、アオイが現れる。

片手に缶コーヒー、もう片手にタバコ。


アオイ

「ガキが見るもんじゃねぇぞ。」


レン

「……見ちゃったんだ。燃やしてたの、あの人たちだよ。」


アオイの目が細くなる。



【2】倉庫街・深夜


アオイが向かった先、

鉄骨の軋む古びた倉庫。

扉を開けると、五十嵐がいた。

手を洗っている。

洗面台のシンクに血が一筋、流れていた。


五十嵐

「覗き癖、なおんねぇな。」


アオイ

「お前が誰を燃やした?」


五十嵐

「……おいおい、久しぶりの再会がそれか。挨拶ぐらいしろよ。」


アオイは黙って、少年が撮った写真を突きつける。

焼却現場の影に、五十嵐の部下の車。


五十嵐

「……悪いが、今回は俺じゃねぇ。だが、“俺のシマ”だ。火がついたのは確かだ。」


アオイ

「つまり、誰かがお前を使った。」


五十嵐は黙る。

灰皿の煙が上がる。


五十嵐

「なあ、アオイ。

俺たちがこの街で喰っていけるのは、表と裏のバランスがあるからだ。

その裏を……誰かがぶっ壊そうとしてる。」


アオイの表情が動く。



【3】廃ビル・地下通路


アオイとレンは、手がかりを追って渋谷川沿いの廃ビルへ。

壁一面に貼られたポスター。

「未来を変えろ」「真実を暴け」

どれも、**過激な“反企業運動”**のビラ。


アオイが足元を照らすと、

焦げたマイクとスマホが落ちていた。


レン

「これ、ゆいさんの……」


アオイはその名を聞いて息を止める。


アオイ

「どこで聞いた?」


レン

「昨日、ここで女の人が男に殴られてた。

“まだ、碧くんを信じてる”って……」


アオイは拳を握る。



【4】倉庫・夜


アオイは再び五十嵐のもとへ。

荒れた机の上に銃と煙草。


アオイ

「“ゆい”は生きてるか?」


五十嵐の瞳が揺れる。


五十嵐

「……知らねぇ。だが、お前が探し回るから、また狙われる。」


アオイ

「狙われてんのは“この街”だ。

誰かが燃やしてる──金でも、正義でもなく、人をだ。」


沈黙。

五十嵐が銃を掴み、アオイの前に投げ出す。


五十嵐

「撃ちたきゃ撃て。

だがそのガキ(レン)だけは守れ。

あいつ、俺の弟分の子だ。」


アオイの目が見開く。


アオイ

「……お前、知ってたのか。」


五十嵐

「ガキが見たのは、“俺の裏切り者”を処分する瞬間だ。

けど殺しはしてねぇ。……燃やしたのは別の奴らだ。」


アオイは煙草に火をつけ、

暗闇の中で呟く。


アオイ

「じゃあ、その“別の奴ら”を引っ張り出す。

俺は足で、

お前は……その影でな。」


五十嵐が笑う。

その笑いはどこか痛々しい。


五十嵐

「お前は変わらねぇな、アオイ。

火の中に飛び込んで、誰も救えねぇのに、

まだ誰かを信じてやがる。」



【5】終幕・朝


レンを送ったあと、アオイは街を見下ろす屋上に立つ。

朝日が昇る。

ビルの窓に、わずかに残った焦げ跡。


ポケットの中、古びたボイスレコーダー。

再生ボタンを押すと、

ノイズ混じりに女性の声が流れる。


『ねぇ、碧くん。まだ、信じてる?』


アオイはゆっくりと煙を吐く。


アオイ(独白)


「信じるってのは、痛ぇもんだな。

でも、それが俺の仕事だ。」


風が吹き抜ける。

渋谷の街が、またノイズの中に沈んでいく。

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『渋谷フェイク・シンドローム』 @tarry_taryy

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