第54話

「な、なんだこれはぁ!!」


絶叫が倉庫に響き渡った。

高く積まれた木箱を開けた海賊の声だった。


「ふふふ……すごいでしょ?

 これが、私の狙っていた“お宝”よ」


私は自信満々に言った。

口にくわえた煙草の味さえ、どこか甘く感じる。


木箱の中身は――

ぎっしりと詰め込まれた、金貨。


「船長! しかも全部、ハリオス金貨だ!

 いくらあるか想像もつかねぇ!」


海賊の一人が、金貨を掴んだまま叫ぶ。


「ど、どういうことだい……?

 ヴェロニカ、ここは何なんだ?

 アタイですら、こんな量の金貨、見たことがないよ」


メアリードは額に汗を浮かべていた。

あら、意外と初心な反応じゃない。


「……説明」


私は商人を見ることもなく、短く言った。


「こ、ここは……王国関税倉庫で……ございます」


商人は喉を鳴らしながら続ける。


「海外交易にかかる税を、一時的に保管するための場所でして……」


倉庫の空気が、重く沈んだ。


「か、関税? お、王国の金を直接奪うっていうのか!?」


海賊たちがざわめいた。

――無理もない。そんなことをすれば、絞首刑ですら生ぬるい。


誰もが躊躇する中で――

あの子たちは違った。


「すごいですよ!

 これだけあれば、ソーサラー魔導書を全部買い集めても余ります!」


「き、金貨……すごい……!

 見ろ、ライカ! ほら、見てみろ!」


「あ、ああ……夢みたいだ……」


カーターくん、オイレちゃん、ライカちゃん。

箱から雪崩れ落ちた金貨を、花吹雪のように投げてケラケラ笑っている。


……うん。あの子たちらしいわ。


そして、もう一人。

金貨には見向きもせず、棚の奥にあった巻物を広げ、目を凝らしている者がいた。


ヒエンだ。


「借用書に……輸出入許可証……禁制品の取引リストまで……」


彼の声は、わずかに震えている。


「これがあれば……自治区なんて話じゃない。

 国だって……」


ふふ。

書類に目の色が変わるなんて――見どころのある子。


本当に、可愛い子たち。


「さぁ……どうするのかしら? 海賊メアリード」


私の言葉に、メアリードは顔を上げた。


「ここにはお宝がある。

 でも、手を出せば大罪人。泣き叫んでも許されない。

 死ですら、生ぬるい」


背の高い彼女を、私は見上げる。


「それとも――

 逃げて海を漂い、ケチな仕事を続けるの?」


彼女の額に浮かんだ汗が、光を反射する。

宝石みたいに、美しく。


……ああ。

とても、私好みの輝きだった。


「アタイを試しているのか? ヴェロニカ」


「ええ。貴方が私と組むに値するか。

 そうでなければ――ここでお別れね」


メアリードの顔が、歪んだ。


「舐めるな」


彼女は胸を張り、咆哮する。


「アタイは大海の咆哮船長……

 噛み千切りメアリードだ!」


空気を掴むように手を伸ばし、振り払う。


「野郎ども! この倉庫の中身は全部いただきだ!

 金貨一枚も見逃すんじゃねぇぞ!!」


怒号が響き、海賊たちが一斉に動き出す。


……あら。


田舎海賊かと思っていたけれど。


「そこそこ」どころか――

想像以上に、使えそうね。




船に略奪品を詰め終えた私達は、早々にハーフェンを離れた。

ぐずぐずしていれば、海軍本隊が来る。

もう、あの街に用はない。


「すげぇ! 俺達は大金持ちだ! なぁ、船長!」


海賊たちは浮かれている。

だが、メアリードだけは違った。

彼女は少し引きつった顔で、積み上げられた箱を見ていた。


「あ、あぁ……そうだな」


「ヴェロニカ様。私達はこれからどうする?」


オイレを先頭に、皆の視線が集まる。


「そうね……どうしましょうか?」


私は少しだけ考えた。

確かに大金だ。

けれど――この程度で、私が満足するはずがない。


「メアリード。少し、いいかしら?」


「……なんだい?」


煙草に火をつけ、紫煙を吐く。


「お金、全部あげるわ」


「ハァァ!?」


船の上がどよめく。


「ヴェロニカ……全部って……山分けでいいんだぞ?」


「いらないわ」


即答だった。


「どうせ、そんな量の金貨、運びきれないもの」


そして、心の奥で思う。

――退屈すぎる。

この程度の財貨で大喜びなんて。


「その代わり、頼みがあるわ」


「……頼み?」


風が帆を鳴らし、海が静かにうねった。


「この世界に、海賊は他にもいるのでしょう?」


「いるさ。カモメ、イルカ、トド……沿岸限定ならワニもな」


メアリードは指を折って数える。


「なら決まりね。この金と戦列艦で、そいつらをまとめなさい」


「……まとめる?」


「海賊大同盟よ」


メアリードが眉をひそめる。


「海賊は代々、縄張り争いが――」


「帰る場所はもう無い」


私は遮った。


「アジトは割れてる。戦列艦は人手不足。動かすだけで精一杯。

このまま小さく縮こまっていたら、海軍に踏み潰されるだけ」


メアリードは黙り込む。


「生き残りたいなら、膨らむしかない。他のアジトを吸収し、船と人を増やすの」


「……だが、他の連中が言うことを聞くか――」


私は船長服を掴み、額を合わせた。


「聞かせろ」


低く、冷たく。


「国の金に手を出したんだ。もたついたら全員死ぬ。

 この状況で、まだ“わからない”なんて言う気?」


海賊たちが息を呑む。


「唸るほどの金と、戦列艦。

 それで木っ端すらまとめられないなら、船長失格よ」


沈黙の後、メアリードの目に、欲が灯った。


「……アタイが、頭に?」


「そう。お前が海賊同盟の頭だ」


私はシャチたちを見渡す。


「この海を、シャチが支配する。

 敬われ、恐れられる世界。――悪くないでしょう?」


欲望が、静かに広がる。


「……わかった。任せてくれ、ヴェロニカ」


私は、彼女の頭を掴んだ。


「名前を呼ぶな」


低く囁く。


「獣王だ。ヘマしたら殺す」


「ひ、ひぃっ……! お任せください、獣王様!」


――契約は、成立した。

う~ん、良いお返事。 とっても仲良くなれたわ(^o^)




海賊船に乗って数日後、私達は王国の警備が手薄な海岸に下ろしてもらった。

いくらかの金と食料も分けてもらったから、しばらく旅には困らないでしょう。


「じゃあね~! メアリード!

 他の海賊とも仲良くしないと駄目よ~!」


遠ざかる船に向かって、私は大きく手を振る。


「は、はい! お任せください!!」


甲板に並ぶシャチたちは、妙に姿勢が良かった。

数日の間、たっぷり“話し合い”をしたもの。

裏切る、という発想はもう無いでしょうね。


「お姉さん? 船に残ったほうが安全じゃなかったか?」


ライカちゃんが首を傾げる。


「いいのよ。みんなと一緒のほうが気楽だもの」


「おお! やはり私達が一番の配下なのだな!」


「一番、ですか……少し照れますね」


オイレちゃんとカーターくんは嬉しそう。


「…………」


「ヒエン? どうしたの?」


「……さっき仲間から、ハーフェンの話を聞いた」


私は彼の肩を抱き寄せ、顔を近づけて笑った。


「楽しいことになってるでしょう?」


「……エグすぎる。正直、引いた」


くすくす、笑いがこぼれる。


「ハーフェン?」


三人は首を傾げる。


「気にしなくていいわ。

 みんなでドッタンバッタン、大騒ぎしてるみたいだから」


ヒエンは何も言わなかった。

ただ、少しだけ距離を取るように歩き出した。


――荒れている街のほうが、私達には都合がいい。


私は何でもない旅の続きのように、前を向いた。


「さぁ! みんな行くわよ!

 この世界にはまだまだ、私達の助けを求める獣人ビースト・マンたちがいるはずよ!」


私が歩き出すと、みんなが続いた。


「ハハハ、そうだな、お姉さん!

 ウチたちに出来ることをしよう!」


ライカちゃんは楽しそうに笑う。


「うむ。悪辣な人間どもは、まだ多い」


オイレちゃんは静かに頷く。


「はい! 悪い人は、きちんと懲らしめてしまいましょう!」


カーターくんは元気よく手を上げた。


「おい……その……少しは手加減してやれよ……」


ヒエンだけが、呆れたようにぼやく。


手加減? 無理な話ね。


私は行くところまで行く。

どんな世界に放り込まれても、やることは同じ。


奪い、従わせ、支配する。

それが一番、楽しいのだから。


異世界転生?

ええ、結構。


――世界がどうなろうと、知ったことじゃない。


私は私のやりたいことをする。


それだけなのだから。



転生したら獣王じゃなくて “マフィアの女帝” が降臨してしまった件

〜獣人を従えて、世界を支配します〜


The End

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【完結】転生したら獣王じゃなくて “マフィアの女帝” が降臨してしまった件 〜獣人を従えて、世界を支配します〜 @kakituki

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