第7話

阿鼻叫喚──


まさに文字通りの風景が広がっていたわ。


ライカちゃん──

オイレちゃん──

カーターくん──


それぞれが、それぞれの方法で追い立て、狩人たちの命を刈り取っていく。


いいわぁ……興奮してきちゃう。

狩人と言っても、大したことはないようね。

おそらくは、あの羊の獣人ビースト・マンのようなおとなしい連中を、

専門にしていた農民かなにかの兼業業者のよう。


武器の振りも、殺気も大したことがない。

死にたくないから振り回している子供のようだ。


それとは、違いライカちゃんたちは、戦闘訓練を受けた者の巧みさがある。

レジスタンス活動していたというのは、嘘ではないようね。


ふむふむ……、異世界とやらに来てみて、初めて会った三人だけれども、

かなり、使えそうね。気に入ったわ……




──大切に、使ってあげなくちゃ……




うん? お前は見てるだけだったのかって?


そんな、まさか。

私だって、ちゃんと“仕事”はしたわ。


私って、どちらかというと――事務より現場派なの。


足元に転がる山刀を拾い上げる。

マチェーテに似た刃物。刃は厚く、不格好。薪やツタを切るための作業用。

重いけれど、手に馴染む。道具として完成された姿。

……いいわね。


ゆっくりと歩く。

目の前には、腰を抜かした狩人が一人。


あら。目が合ったわ。


「お、おい! 何のつもりだ! やめさせろ! アンタの奴隷だろ!?」


何のつもり?……見た目通り愚鈍なのね?

凶器を持って、近寄る者の目的なんて──一つしか無いじゃない?


「別にカーターくんは、私の奴隷ではないわ。ごめんなさいね――私、嘘つきなの」


「わけわからんことを言うな! 早くあのケダモノ共を止めろ!

 な、なぁ……助けてくれ……同じ、人間じゃないか?」


……人間。

そうなの、あなたには私がそう見えるのね。


あらあら……目が節穴ね。


「ねえ、私の渾名を一つ、教えてあげる」


男は唇を震わせた。

意味がわからず、ただ恐怖に呑まれている。


私は、山刀を振り上げる。

金属が陽の光を反射して、鈍く光る──


あぁ……本当に良いわ。

その目、その顔。命が尽きることを身体がわかってしまったときに見せる、

一瞬の芸術……


「ケダモノよ」


刃を振り下ろす音は、意外なほど軽かった。

そうして、大きな“果物”は果汁を撒き散らして、パカリと割れた……


静かに倒れた狩人を見下ろしながら、私は微笑んだ。

――ふふふ……とっても……楽しいわね。




狩人たちは、全員――死んだ。




情報はまぁまぁ手に入ったし、この山刀も気に入ったわ。

貰っておく。ありがとね。


オイレちゃんとカーターくんは、縄を解かれた羊の獣人たちを手当てしている。

その様子を眺めていると、ライカちゃんが近づいてきた。


「……隙を作るって言ってたが、なんであんなに、会話なんてしたんだ?」


「おかしいかしら? うまくいったでしょ?」


「……武器を置いた時点で十分だったと思うが」


「ごめんなさいね。タイミングをミスっちゃったみたい。

 次はもう少し、上手くやるわ」


本当はもう少し話を聞き出したかったけど、

あれ以上は信頼を削ぐリスクが高い。彼女は獣人ビースト・マンを狩る、

狩人たちと親しげに話していたことに 不快感を持っているみたい。

引き際も、大事な戦術の一つ。


そんなふうに考えてたら、ライカちゃんは気まずそうにしながら、頭を下げた。


「……助かった。

 ウチらだけじゃ、きっとこうはいかなかった」


――お礼、ね。


面白い。

お礼を言うってことは、相手を同等、あるいはそれ以上と認めるということ。

敵や下僕に対しては、絶対に出ない言葉。


「いえ、あなたたちが傷つかないように、慎重になりすぎたわ。

 ごめんなさいね」


「ウチらのことを……気にしてたのか?

 そ、そうか……ごめん。ちょっと言い過ぎたかも……

 オイレが、お前は裏切るんじゃないかって、変なことを言うもんだから……」


ふ~ん……オイレちゃんはまだ、疑ってるのね?

いいわね。出会ったばかりの者をすぐに信用するのは良くないわ。


それに引き換え……ライカちゃんはそういうタイプなのね。

成果で評価を変える実務肌。わかりやすくて助かるわ。

前歴や人柄よりも、何ができるのかを重視する。


 【あなた達】の学校や職場にもいない?

みんなが先生や上司の悪口を言って盛り上がっているのに、


『別に、仕事できれば何でも良くね?』


みたいなことを言う人……

こういう人は自分のしようとすることがスムーズに行けば、あとは気にしないわ。

とっても、有能な人よ。部下に欲しい人材ね……


その代わり、有益だと自分が判断したことに、妄信的になりやすい欠点があるわ。

ふふふ……私もそのクチだから、仲良くなれそうね?


――信頼関係。

積み上げるのは難しいけれど、崩すのは一瞬。


だからこそ、扱うのが楽しいのよ。

まぁ……今の状態だと

信頼関係が崩れた瞬間に殺されてしまうのがネックなのだけど。



羊の獣人たちは、メェ〜メェ〜と鳴きながら頭を下げていた。


「助けていただいて、ありがとうございます」


「あらあら、気にしないで。

 私はこういう悪事を見逃せないだけだから」


――そうよ。

納品前の“商品”に手を付けるなんて──


『業務上横領』


なんて、許されない行為だもの。


「人間……みたいですが、なぜ、我々を?」


「あら……ここだけの話よ。

 私、獣王なの」


「じ、獣王様!?」


あら、びっくりしたわね。

どうやら、その名は彼ら獣人ビースト・マンにとってとても重い意味を持つらしい。


「……でも、本当ですか? 人間にしか見えませんが?」


ふ〜ん。まあ、そうよね。信じられないのも無理はないわ。


「……ライカ。お前はどう見る?」


オイレちゃん。

コソコソ話をするときは、もう少し小声のほうがいいわよ?


カーターくんにかけてもらった魔法のお陰で、丸聞こえよ。


「……正直、わからない。

 でも、羊たちを救えたのはアイツの作戦のおかげだ」


「僕は、ある程度信じて良いと思います。

 魔石を用いた復活の儀式は確かに成功しました。

 獣王様でなかったとしても、それに近い存在かと……」


なるほど。いいフォローね、カーターくん。

でも、もう一押しが必要かしら。

今、信頼を量る天秤は、揺れ動いている。


こういうときは押しの一手に限るわ。


「まあ、気をつけて帰ってね。

 私たちは行くところがあるから」


「行くところ、ですか?」


「奴隷市に決まってるでしょう?

 そこを――めちゃくちゃにするのよ」


一同、息を呑む。

いい反応ね。舞台の観客みたいだわ。


「まさか……獣人ビースト・マンを解放しに行くのか?」

「我々だけで……?」

「そんな、だいそれた……。けれど、獣王様の逸話には……」


私は彼女らの声を背中で受けながら、歩き始めた。


「貴方たちはどうする?

 ──ついてくる?」


振り返らない。

でも、背中越しに三つの足音がついてくる。


ああ、うれしいわ。

信頼という名の首輪を、きっちり締められた気分。


――これで、舞台の幕が上がる。


この異世界とやらを、私のものにする歌劇のね──


──第二章 捕まえるのは狩人 捕らえられるは羊 完。

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