第6話

「ごきげん麗しゅう、皆様。

 お楽しみの最中にお邪魔してしまって、ごめんなさいね」


私の声に、狩人たちは一斉に振り向いた。

森の中から歩み出た私に、彼らの視線が吸い寄せられる。


……あら。どうやら、この世界でも美貌は通貨のようね。

本当に、罪な女だわ。


「テメェ、何もんだ!」


……違うみたいね。どうみても、不審者に対する反応。

悲しいわ……


叫びながら武器を構える狩人。

剣、ナイフ、弓。――なるほど、銃はないのね?

高価すぎて手が出ないのかしら。どうなんでしょ?。


「お待ちなさいな。私は敵ではないの。

 同業者よ――そうね、“商人”と言ったほうが分かりやすいかしら?」


嘘ではないわよ。私も、人の人生を売り買いしていたもの。


「こんな森の中で女が……?一人か?」


「まさか。ほら、出てきなさい」


呼びかけると、木陰からカーターくんが現れた。


獣人じゅうじん!?」


「安心して。彼は私のものだから、危険ではないわよ。

 ……ね?分かるでしょう?」


狩人たちは顔を見合わせた。

襲いかかってくる気配はない。


「奴隷か。驚かせやがって」


なるほど――奴隷なら違和感がないのね。

勘で話したけれど、どうやら正解だったようだわ。


「少し道に迷ってしまってね。

 あなたたち、街に向かっているのでしょう?」


「……ああ。こいつらを“納品”するんでな。

 アンタも街に行くのか?」


納品──

つまり、奴隷商か、あるいは市場があるということ。


ふふ……面白くなってきたわね。


「ねぇ、武器を下ろしてくれない?

 そうじゃないと、落ち着いてお話ができないもの」


狩人たちは一瞬ためらったが、

私の言葉に押されるように武器を下ろした。


それもそのはず。

このスーツの生地は明らかに上等。

粗末な布を纏う彼らには、私が“上の世界の人間”に見えたのだろう。


第一印象は、常に資本。

人は、見た目で九割、判断する生き物よ。


【あなた】もそうよ?

髪を整えて、少し良い服を着てみなさいな。

きっと、世界の扱い方が変わるわ。


――ヴェロニカさんからの、無料アドバイスよ。


狩人たちの足元には、衣服を裂かれた羊の獣人がいた。

怯え、震えている。


――あら。よかった。

どうやら、最後の一線は越えなかったようね。


“タイミングを見計らった”甲斐があったというものだわ。


「それで、街までの行き方を知りたいのか?」


「ええ、まぁね。

 それと……その子たちの“値段”にも、少し興味があるの」


「値段? あんたが買ってくれるのか?」


あら、いい質問ね。

でも違うわ。私はただ――市場の相場を知りたいだけ。


奴隷といっても、時代や地域で価値はまるで違う。

高級外車のような時もあるし、家電の時もある。

値段を知れば、社会の構造が見えるのよ。


狩人が挙げた数字は……正直、ピンとこない。

この世界の通貨価値を私は知らないから。


でもね、無駄ではないわ。

知っていると知らないとでは、全く違うから──


“手間と危険”を考えれば、安いものでは筈。

魔法を使い、武器を持つ相手を生きたまま捕えるのだ。

コストのかかる仕事に見合う報酬がもらえるはず。

――つまり、それだけ需要があるということね。


ライカ、オイレ、カーター。

彼女たちは差別を受ける被害者。

差別をする加害者の“言い分”も聞かねば、公平とは言えない。


一方的な情報だけで動くのは危険よ。

事実を裏付ける。――そう、ファクト・チェックってやつね。


皆も覚えておくといいわ。

情報を信じすぎる人間ほど、いいカモになるものよ。


「──そう。大きな奴隷市が開かれるのね。噂のとおりだわ」


――噂?

全く知らないけれど、それっぽく言っておくに越したことはないわね。


「なんだ?奴隷市に行くのか?それなら、コイツらどうだ?

 生きがいいし、羊はおとなしくて扱いやすいぜ?」


ふ~ん。商談を持ちかけてくるとは、案外、話が早い。

確かに、この人数を街まで運ぶのは骨だろう。

ここで換金できるなら、悪くない取引でしょうね。


「それもいいけれど……う〜ん。

 奴隷市を取り仕切ってる方が、掘り出し物を用意してくれるって言ってたのよね」


「……コルストン様のことか?

 アンタ、まさかあの大商人と知り合いなのか?」


コルストン。

そう、そういう名前なのね。覚えておくわ。


「ええ。コルストン様は、

 に特別な獣人じゅうじんをくださるの。

 困ったわ……どうしましょう?」


軽くシナを作ってみせると、狩人たちは私の身体を舐めるように見た。

――あらあら。

このスタイルを維持するのに、あなたたちが一生を使っても

稼げない金を使っているのだから、当然よね?


「コルストン様はこの前、婚姻したばかりじゃなかったか?」


「貴族の姫様を娶ったとか。羨ましいもんだ。

 水仕事知らずの女は柔らかいだろうなぁ」


ふふ……奴隷商と貴族。

なるほどね。取引と支配は、いつだって隣り合わせ。

――とても、面白いわ。

お金を稼げば、こんな事もできるって、いい例ね。


でも、そろそろタイムリミット。

カーターくんがぷるぷる震えている。


あぁ……勿論、トイレを我慢しているわけじゃないわ。

怒りに震えている──

同族を無下にする人間に強い怒りを感じている。


もう少し情報を引き出したかったけれど……仕方ないわね。


「はいはい。お待たせしたわね。

 ――やっちゃっていいわよ」


パン、パン、と手を打つ。


狩人たちは、一瞬何が起こるのか理解できずに目を丸くしていた。

その顔を見るのが、私は大好きなのよ。


私の合図とともに、草むらからライカちゃんが飛び出した。


地を這うような疾走――まるで狼ね。


「死ねぇえ!!」


──咆哮。

両手の斧が唸り、先ほどまで意気揚々と笑っていた狩人の首が宙を舞った。


……見事。

普通の鉄の斧であの切れ味。

筋肉だけでこれをやるなんて、相当な腕力ね。


「じ、獣人じゅうじんだ!!」


叫びながら弓を構えた狩人。

けれど、矢がつがえられることはなかった。


木の上から降り立ったオイレちゃんの鉤爪が、男を地面に叩きつける。

そのまま喉元へ短剣を突き立てた。


「……下衆が」


血が噴き上がる。

……おほ。上手ね。

刃を引き抜く角度まで完璧。


「ひぃぃぃ!」


一人が情けない声を上げて逃げ出した。

けれど、逃走が成功することはなかった。


次の瞬間、服が燃え上がり、悲鳴が火の中に溶けていく。

あぁ……死んだわね。あれじゃあ。


「地獄に落ちろ」


杖を構えるカーターくんがいた。

なるほど。魔法って、こういうものなのね。

実に興味深い。


彼らは次々と、狩人たちを仕留めていった。


それぞれの動きに無駄がない。

息が合っている。

まるで、訓練された部隊のよう。


――素晴らしい。


お姉さん、すごくうれしいわ。

やっぱり、優秀な人材を抱えるというのは、最高の贅沢ね。



──続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る