官能と純愛の狭間で

shosuke

第1話 俺の官能

このお話はフィクションです。

実在の人物・団体とは関係ありません

ファンタジックな世界をお楽しみください。


14時

気だるい空気が世界を包む。

午後の陽射しが降り注ぐ桟橋を横目に見ながら遅いランチからの帰り道を急ぐ。

夜を好むグールにとっては一番嫌いな時間と言っても良い。

俺はまるで吸血鬼さながらに背中を丸め太陽の光から逃れるように歩く。

長めの乱れた前髪がその血色の悪い顔を覆いかぶすように垂れている。

ポケットに突っ込んだ掌に触れているスマホがブルッと震えた。

歩きながらスマホを取り出し通知を見る。

マッチングサイトから、連絡を送った相手とマッチした旨を伝えるメールが入っていた。

すかさず返事を打ち込む。

「今夜会えませんか?渋谷のヒカリエ前に19時で」

挨拶もそこそこに待ち合わせを打ち込む。


マッチングアプリで挨拶など必要だろうか?

時々思う。

結局、目的はお互い同じなのだから通り一遍の形式など意味がないのではないか?


中には本当に恋人を見つけるためにサイトを利用している女性もいるかもしれない。


しかし、そう主張していた女性もちょっと押せばすぐ身体を開く。

迷っているフリはするが最後は家までついてくる。

無理強いはしない。

逆に「どっちでも良いよ」という態度を取れば勝手に気持ちを揺らし、気がつけば俺の上で勝手に激しく揺れている。


俺だって恋に落ちるくらいの女性に出会いたいと思っている。

でもどんなに知的な女性も、清楚を絵に描いた女性も、無垢な少女のような娘も、頑なな鎧を脱がせてしまえばみな呆れるほど簡単に墜ちていく。

途端に興味を失いLINEが来ても未読スルーになっていく。

駆け引き上手な女性もいたが、自由を気取っていても結局は俺を自分だけの物にしたくなり縛りがキツくなる。

マッチングアプリだけでなくXのDMにもメッセージがくるようになり、一人の女性に執着などしなくとも出会いに困ることなど全くなかった。


宵の口のヒカリエ前は待ち合わせする人の波で混雑していた。

エスカレーター前だと落ち着かないので入り口に面したカフェの前で待つ。

向かいの駅の壁一面に、魔方陣のような幾何学模様を繰り返し描き出すイルミネーションの点滅を眺める。


待ち合わせの目印は特に決めなかった。

「私の方はあなたの顔は知っているからあなたの方が私を当ててみて」とLINEが来た。

俺はアイコンを自分の顔にしているので相手からは俺を見つけられるだろう。

それならと俺も周りをそれとなく眺める。

まだ来ては居なそうだ。

18時50分

そろそろ来そうかなと注意深く人の波に目を凝らす。

ー-あの人か?

数歩前に出て確かめてみる。

スラッとした髪の長い女性。

目があったがそのまま行ってしまう。

違ったか?

元の位置に戻ろうと振り返った。

カフェの窓際のスタンドに緩いウエーブの髪を腰まで垂らしタイトなスーツの上にエルメスのスカーフを巻いた女性がコーヒーカップを傾けている。

いかにも頭の切れそうな、それでいて悪戯好きそうな女性。


--この人か?いや、もしこの人でなくてもこの女性に声をかけたい。かけなくてはいけない。


衝動的にそんな気がして、入り口を周りカフェのドアに手を掛けていた。


To be continue…




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