ぼやけた視界に映るもの
和崎 蓬
第1話 眼鏡を外してスーパーに行った
私は目が悪い。眼鏡をかけるか、コンタクトをつけるかしないと、ぼやけてしまって遠くの文字が読めない。それでも、まったく見えないわけではない。ぼんやりとではあるが、人や物の場所や輪郭、色合いは分かる。つまり、文字が見えないだけで眼鏡をしなくても(最低限の)生活は可能なのだ。
私は時々、世界が嫌になる。そんなときは、眼鏡を外して外を歩く。何もかも鮮明な世界に抗いたくて。と言うと、ちょっと大袈裟だけれど。
その日はスーパーに行くことにした。裸眼で見る世界はぼやけている。パンはパンであって、クロワッサンかトーストかの区別もつかない。弁当は弁当であって、おかずがハンバーグなのか唐揚げなのかも分からない。そして、人は人というオブジェクトであって、個人を認識することもない。うっかり知り合いに気づいてしまって話しかけるべきか悩む必要もなく、人というオブジェクトにぶつからないように歩くことを気をつけるだけである。なんだか楽しくなってきた。
そのあと私は、お茶を一本と弁当だけを買って家に帰った。弁当は唐揚げだった。
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