冒険者ギルドが貴女を待っている!


 会議は終わり、私はメーザリーの屋敷を後にした。馬車の中で、何となく会議を思い出す。

 アルバーネの爺さんは要注意だな。流石、リストから一回外れただけあるわ。塩梅を攻めるのが上手い。大抵の奴らは、ここを間違える。


「……ま、聞きたいことは聞けたかな」


 窓枠に肘を付き、溜息を吐く。あ~めんど。これでもうビビられちゃったよ。狐顔とキツい顔に話し飛ばそうとする度に防いできやがったからな。致命的な失点は避けてきた。めんどい。

 けどさ、三人が繋がってるのは察せるよね。爺さんが上で、他が対等に見えて下って感じだ。多分、爺さんを二人は頼れる仲間に思ってる。爺さんは思ってないだろうけど。


「こっちに降ってきたらどうしよ」


 でもあんな感じの手合い、利で転ぶ分楽ではあるんだけどね。忠臣には成り得ないと見てる。全部吐けば生かして、名誉職に押し込むのが妥当かなぁ。下手に有能だからな。いいや、その時に考えよ。

 他二人は不要。三人とも後ろ暗いのは確定だし、後は洗って利益関係調整すれば、晴れて絞首台行きかね。ま、罪次第か。法があってよかったね、場合によっては無視するけど。


「カミラは……ダメそう」


 人が良いだけ。それ以外は普通の奥方って感じ。西方鎮圧のゴタゴタがあったとは言え、アレに統治任せたのは本家の落ち度。また両親に文句言っとこ。人は良いんですけどね。

 統治カテゴリーのトップ四人中三人が外れって本気?腐敗よりもそっちの方が怖いかもしれん。教会、商会、ギルドはどうかねぇ。問題は知ってるけど、本人の状態や雰囲気は知らないからな。


「次はギルドかぁ」


 まだまだ挨拶巡りは終わらない。少なくともまだ三つ残ってるからな。もう一日寝込みたいぐらいには疲れてるんですけど……。

 ガラガラと馬車は進んでいく。私の気持ちをどうにも引き摺っていくように。


「お嬢様。着きました」


 そのまま暫く馬車に引かれて、やがて止まった。窓の先に見えるのは、数階に及ぶ巨大な建物。これ貴族の屋敷ぐらいあるんじゃない?随分と儲かってるのねぇ。

 私が降りると馬車は去り、直衛達も下馬して私の傍による。彼らが馬を留めるのを眺めつつ、安定の嫌な予感を感じていた。絶対ロクでもねぇ。腐敗は確定してるから、後はオプションが付くだけ。


「直衛全員」

「はい」


 一応声を掛けておく。今さっきの屋敷とは違って、雑多な場所だ。私が怠い目に遭う確率は絶対に高い。

 

「行くわよ」


 無言で私に向けた敬礼が、五つ。さて、行きましょうか。


「親父!エール三杯くれ!」

「この肉、向こうの卓まで頼んだ!」

「はいこれ!お代わり置いとくよ!」

「おい!俺の剣どこ行った!?」


 扉を開けて中に入ると、熱気と喧騒が私たち六人を包み込んだ。酒、飯、人、様々な臭いが私の鼻を襲ってくる。くしゃみ出そうになるんだよね。空気がわりぃわ。

 併設酒場がもうやかましいんだ。元気があり余り過ぎでは。


「ゴブリンの耳、ちゃんと持ってる?」

「次の方!どうぞ!」

「受注書、お持ちですか?」

「冒険者証忘れた!?殺すわよ!?」


 依頼窓口の方に視線を向けても、雑多。人多い……。アポ取ってるはずだし、とりあえずそっちに行くか。


「……アレ、貴族か?」


 窓口、人が詰まってんだけど。直衛たちは私を守るために、周りを囲ってくれている。助かるわぁ。あの人混みに突入するのはちょっと……。


「貴族だろ。真ん中の嬢ちゃん、馬鹿みてぇに綺麗だ」

「口説いてこいよ。ミドルに入ったんだろ?あんなにイキってたじゃねぇか」

「勘弁しろよ……」


 ワイワイガヤガヤ。ヒトヒトコミゴミ。気付いてくれないかな~。直衛の誰か、カウンターに送り込むかぁ。


「じゃあ、俺が行っちまうぜ?」

「止めとけ。貴族はおっかねぇぞ」

「ビビってんのか?銅の癖に?」

「違う。……お前は貴族を知らない」

「……舐めんな!銅だからって、調子に乗るなよ!」


 しばらく微妙な感じでカウンターを眺めている。こういう、何にもならないけど待つしかない上に、何かの邪魔ってのが一番嫌なんだけど。気まずい。


「お嬢さん、貴族ですかい?」


 先生が先に入ってて、元メンバーと話してるって聞いたんですけど。どこにもいないんですけど~。


「ちょっとだけ、話しましょうよ。暇そうですし」

「下がれ、冒険者」


 あ、何か来てた?モーリスが、腕っぷしだけに自信がありそうな男を弾いている。こういう変なのが絡んで来るから来たくないんすよここ。

 裏口は書類や物が多くて通れませ~んとか向こうは言ってたけど。絶対に通れる。わざと正面通らせて絡ませるんすよ。こうして悪印象が付くんだよね、ダルすぎ。


「んだよ!護衛に用はねぇ!」

「兄貴、大丈夫っすか!?」

「舐めやがって……!」


 何か集まってきた……。三人も増援がやって来たんだけど。普通にシバいたろうか。直衛が。私?無理、短杖しかないし。流石に剣抜かせると大事になるからなぁ。


「お高く留まりやがって!女が!」


 はいはい。見た目もゴミなら中身もゴミなのね。人生楽しそうで羨ましいわ。

 ようやく窓口の方も気づいたっぽいけど、普通に手遅れっす。あのさ、頼むよ。これだからギルドは嫌なんすよ、雑。全部が。


「どうします?」

「死なない程度に」

「はい」


 ロブがひそひそと声を掛けてくる。向こうの落ち度だし、さっさと分からせましょ。こういうのは一回許したら何度も来るからね。一回目で潰し切るのが大事。

 伝言ゲームみたいに耳打ちをやっているのが見えた。内容?うるさすぎて聞こえないっす。

 んでロブだけ私の円陣から抜けて、男たちの方に向かった。イリルともう一人が私に残って、後の二人はロブの方へ。


「おい」

「何だよ!」

「口出すな!貴族の奴隷が!」


 相対してますね。戦力は三対三、まぁ負ける訳ないっすよ。対人戦のレベルめっちゃ上がってるし、西方鎮圧のお陰で。


「もう一回だけ言ってやる。下がれ」

「うるせぇ!テメェらが下がれ!」

「いいだろ!乳の一つぐらい!」


 低俗な暴言が吐かれた瞬間、ロブが乳の話をした奴の鼻っ面をぶん殴った。バギィッと鈍い音が響き、細めの男が吹き飛ばされる。あ~あ。


「やりやがったな!」

「ふざけやがって!」


 後の二人も凄いっすね。モーリスは太めの相手に一発。腹にめり込んでるわよあれ。痛そ~。もう一人は、殴りかかってきた相手の腕を掴んで、地面に叩きつけてますね。こっちも痛そう。


「処遇は?」

「暴言に襲撃、どうしようかしら」

「処刑しますか?」


 えっ圧つよ。流石に市民や冒険者がビビっちゃうからね。禁錮でいいや。


「窓口の受付嬢に、衛兵呼ばせて」

「はっ!」

「禁錮ね」

「承知しました」


 あ~あ、ギルドが静かになっちゃった。そりゃそうですけど、別に私から喧嘩売った訳じゃないから。しょうがないじゃん。だからさ、こっち見て固まるのやめてくれない?

 さっきまで一ミリも見てなかった受付嬢の皆さん、全員こっち見てるんですけど。勘弁してよね。


「おい、何があった」


 あ、ギルド長が降りてきた。遅いよ~。くたびれ気味の壮年男性さんですね。顔の傷を見る限り、何となく歴戦感は漂っている。体幹もしっかりしてるし。


「ギルド長、あの」


 受付嬢の一人が状況を報告しようとするも、どうにも難しい様子。そりゃ最後しか見えてないだろうし。


「貴方がギルド長だな?私から説明しよう」

「……助かります」


 直衛たちと一緒に、二階の応接間へと向かう。そして、私が先に椅子へと座る。この光景、なんか見覚えが。でも街違うし、禿げてないし、強そうだからな……。


「お待たせして申し訳ございません、ダレンと申します。シリッサ冒険者ギルドの長を務めております」

「ソフィア・リードラル辺境侯だ。西北の統括を担当、つまりシリッサも範囲内だ」

「辺境侯……。メーザリー様は、どうなるので……?」

「一旦据え置き。初期から混乱を招く意図はない」

「承知いたしました」


 とは言いつつも眉を潜めるギルド長、絶妙に信じてなさそうですね……。まぁ、初手暴力騒ぎだからね。どうにもならない。


「それで、一体何が……?」

「愚か者が絡んで来た。そして、我が護衛に倒された。以上」

「なるほど……。彼らは?」

「禁錮でしょうね」

「さ、左様ですか」

「愚かさにしては寛大な罰でしょうに」


 他の貴族なら首はねてますよ?フェロアオイ領は他に比べて、法律順守については結構ガチなんで。禁錮とは言ったものの、長くて数週間でしょ。緩い緩い。


「運営の調子はどうかな?」

「大方、上手くいっております」

「ほう……?」


 まぁ失点は避けたいよね。対処可能と踏んでいるのか、敵の内側なのか。揺さぶるか。若いから舐められてる説?あるかもだし


「来る前の報告とは、少し違うな」

「……!?」

「問題ない。そうか」


 目が泳いだな。手を揉んでるし。対処可能か不可能か、後で発覚は怖いぞ~。


「……すみません」

「?」

「実は、その」

「落ち着いて話せ。真実を語る者を邪険にせんよ」

「感謝します」


 私の言葉で、ギルド長は深呼吸を一度挟んだ。しばらくすれば落ち着いて、私の目を見た。


「下級ランクの冒険者が……港湾ギャングと組んでおりまして」

「対処は?」

「正規の依頼として、護衛や警備を挟んでおり」


 あ~そういう感じか。正規依頼で出して、正規の依頼だけどその中身の一部が違法な感じ?輸送の一部が薬とか、禁制品的な。


「中身が一部、か」

「……はい。依頼者も立ち替わりで、管理し切れず」

「貴族は?」

「どうやら、何か貰っているらしく」


 狐顔、消すかぁ。ギャング抑えたら消そ。証拠も出てくるだろうし。


「こちらで対処しよう」

「本当ですか?」

「無論だ」

「感謝します」

「貴族なら、当然の事だ」


 統治するのは責任を負うってことだからね。私たちにしか対処できない問題だし、それ。ギルドでやられるとこっちが困るわ。


「ぐらいかね?」

「……はい」

「ふむ。動きあれば連絡しよう」

「重ねて、感謝します」


 手を適当に振って、席を立つ。トップは何とかマトモだが、下からじわじわ利権で食われてるって感じだろうなぁ。

 上位が食われないように、何とかいい依頼回して維持してるって感じだろうけど、まぁキツいな。んで下位からは優遇ってせっつかれる。う~ん。中間管理職。


「これから宜しく」

「はい、どうぞ宜しくお願いいたします」


 席を立つ。挨拶はこんなもんでいいだろ。聞きたいことは聞けたし、ギルド長の感じも分かった。一旦ね。

 

「そういえば」

「はい」

「アトモスも来ているはずだが」

「彼女なら、昔の仲間と話しておいでです」

「案内を頼めるか?」

「勿論です」


 ま、ギルド長は腐ってなさそうな感じ。体感だから、これから要調査なんですけど。一旦セーフってのは嬉しい。


 さて、先生のお仲間はどんな感じかね。一番楽しみまであるぞ~。

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