三頭貴族


 入って来たのは三人の木っ端貴族。順に狐っぽい若めの男、キツい顔の女、人の好さそうな老人。面倒が三人も。話すことねぇよ粛清候補に。


「どうも、リードラル卿。聞いていた以上にお若く、美しい」

「あら、お上手ね」


 狐貴族が私を褒めてくる。私は当然、素直に喜んでいる感を出す。嫌な目で見てくんなぁ。色系の悪さ、顔立ちはそれなりに整ってるかな。

 で、お前も私を知ってると。カミラがシンプルに忘れてたとかある?メンタルヤバ目っぽいし、無い事も無いか?ケネスは冤罪?ならあの汗は何だ。


「リードラル卿!私、ヴィッセラ・リセード伯爵と申します。」

「リセード伯爵ですわね。ふむふむ」


 押し退けるようにキツい顔の女は自己紹介を挟んで来る。素直に人のことを見るタイプのお嬢様ですよ私は。自分の目に光を入れるのが大事でぇ。

 んで身綺麗にしてるのを何となくキラキラした目で見ますと。ちょっと嬉しそうですね。私も嬉しい。こういう所は複雑なんですよ。別に全員やべぇって訳じゃないし。多分。


「リードラル卿。そちらのドレス……素晴らしいですわね」


 いいとこ見てるね。リセード伯爵も見た目に気を遣ってるのは分かるけど、そのドレス……。生地や縫製を見る限り伯爵レベルで買えるものじゃない気が……。まぁよし!


「フェロークで買ったのですわ。リセード伯爵も素晴らしいドレスをお持ちですね」

「分かりますか!?」

「勿論です。外の品でしょう」


 ロンディルト王国には外がある。征服してきた外の国が。幾つもの国家が吸収されて従属しているんですよ。その一つでよく見られる型の生地。文化的にはカレーのイメージが強いあの国に似てます。


「舶来には夢がありますから。よく手に入れられましたね」

「偶然ツテと、収入がありまして……。その甲斐があったというものです」


 大丈夫なのか本当にそれ。疑いたくないけど、疑惑二人目だぞ?リセード伯爵もカミラと似た境遇ではあるが、雰囲気は全く逆だな。明る過ぎる。まだ分からんけど。


「私めはレスター・アルバーネ伯爵と申します。」


 爺さんが話し掛けてきた。貴方がレスターか、人のよさそうな雰囲気なんだけどねぇ。


「よろしくね、アルバーネ」

「はい、よろしくお願い致します」


 で、狐貴族の名前は何?君だけ名乗ってなくない?別に知ってるからいいんだけどさ。一応聞いとこ。あんまり情報持ってる感出したくないし。


「貴方は?」

「失礼いたしました。私はマシュー・デンハム子爵でございます」


 一人だけ子爵ねぇ。


「デンハム子爵ね、よろしく」

「はい。以後、お見知りおきを」


 一通り、これで名前と雰囲気は何となく覚えたかって感じ。さて誰が消えるべきなのか、どうにかして目星付けたいとこだけど……。何から聞こうかな。


「皆さんは何故、こちらに?」

「私達は……メーザリー侯爵の一部職務を代行させて頂いております」

「侯爵殿、そうなのですか?」

「そうねぇ。皆優秀なのよ」


 なんで当然の質問をしただけで、ちょっと三人側から引っかかるような空気が出るんですかねぇ。カミラは平常運転。優秀かどうかはこれから見ます。楽しみですね。


「では、それぞれ何を担当されているのか教えて頂いても?」

「勿論!」


 何となく先に調べてはいるけど、認識あってるかどうか見たいし。答えてくれそうでよかった。


「デンハムには、ギルド関連のお仕事を頼んでいるわ」

「はい。ギルドの調整を担当しております」


 くっろ。ギルドの腐敗についてどう思ってるのか聞きてぇ~。でもここで暴くと、ギルドの方が潜るからなぁ。流石に初日から詰めまくるのはちょっと、必要性に対してデメリットがデカすぎる。


「リセードは市場や……えぇと」

「主に経済を担当しておりますわ、リードラル卿」

「凄いわね」


 ここの経済担当ってぶっちゃけしんどいと思いますけどね。一般貴族レベルの黒ではあるのかもしれない。お薬とか流してたら一発アウトだけど。確か流れてたんだよ……。


「アルバーネは、軍の指揮ね。私はその辺分からないから……」

「侯爵殿の軍を担当しております」

「そうなのねぇ」


 向こうがどれだけ私の情報持ってるか分からないから、難しいのよね。

 領主軍の軍権を持ってる老貴族ねぇ。血族でもないし、やっぱ普通に邪魔だな。てか軍権任せちゃダメよ……。分からんって貴女ね……。


「リードラル卿」

「どうされたの?」


 老人アルバーネから声を掛けられる。なんすか。


「知らぬ者の振りなぞ、不要です」


──────そりゃ、知ってるか。


「……どういう事かしら?」

「卿。貴女の勇名、シリッサにも届いております」

「噂だけが歩いてるから困るわ」

「西方の鎮圧。数多の家が消えたと」

「らしいわね」


 唐突過ぎて、カミラと他二名が困ってるじゃない。別に不敬かましてる訳じゃないから、罪に問えないとこが難しいっすね。やはり爺は食えねぇ。


「アルバーネ、貴方の名前も聞いてるわよ」

「ほう?」

「軍権の掌握で、一回リストに上がってたもの」

「……肝が冷える話です」

「そう?」


 結局消えてないんだからいいじゃない。シリッサと闘るのは長くなりそうだったし、反乱の芽は見えなかったから流したのよね。


「あの、アルバーネ……?」

「どうされましたか?侯爵様」

「さっきから私たち、何のことやら」

「失礼いたしました。この御方が、余りにも謙遜されるもので」

「してないですよ」


 私はキラキラアイで見返すものの、アルバーネから冷たい目で見られる。あら、こりゃダメそうね。しょうがないなぁ。


「そもリードラル卿。貴女は名前を完全に名乗っていない」

「そうなのですか?」

「…………事実ですね」


 時間稼ぎ程度の秘密だけど、暴かれるのは萎えるわ。うぜ~。そのしてやったり顔、どっかでシバいてやるからな。


「貴女の名は……ソフィア・クオーツ・リードラル=フェロアオイ」

「フェロアオイ……!?」

「七大……?」


 びっくりしてますね。そらそう。機密って訳じゃないけど、下級貴族は知らんよね。侯爵なら知ってるよねぇ。でも、アンテナを張る力があると分かったのは収穫ですね。


「仰る通りですわ」

「つまり、法務卿家の長女様」

「事実ですわね」

「だから西北統括の辺境侯に、その若さで」


 場が親しみやすい小娘を見る空気から、一気に上級貴族が遊びに来た感じの緊張感になってしまった。これならもうちょい探っとけばよかった。

 普通にアルバーネが防いだんだろうなぁ。口滑らせないように。アルバーネ以外は結構怪しい内容と視線だったからな。罪状一個ぐらい回収しときたかったんだけど。

 ま、いいや。ここからは普通に行きます。目も、振舞いも一気に暗く。無理に明るくするのは性に合ってないしね、正直。


「……もう少し隠そうと思ってたんだがね」

「それはそれは、大変失礼いたしました」

「構わんよ。子どもの雰囲気は疲れる」

「……美しい」

「リードラル卿……」


 いつもの微笑で、雰囲気で。アルバーネは面白そうにしてるし、デンハムは……なんで嬉しそうなんだ?女の趣味悪いっすよ。リセードは見定めてるわね、カミラだけが困惑オンリーって感じ。


「君らの有能も、無能もある程度知っている」

「!?」

「だからこそ、私は君らを試したのだ」

「なんと……」

「結果は落第一、欠点二、及第点一。悲惨なものだ。だが、構わない」

「構わないとは……?」

「無能は修正可能だ」


 酷い言い様ですけど、粛清も視野に入れて探ってましたって言えないからね。流石に。まだ君らの可能性を信じてる路線で行こう。


「シリッサの話はある程度聞いている」


 空気が馬鹿重くなるのやめてくださいね~。別に詰めようと思って詰めてないからさぁ。カミラだけだよ、よく分かってなさそうなの。


「私が求めるのは一つ。誠実な仕事」

「……仰る通りで」

「つまり、これまで通りという事だ」

「……」


 正確な仕事を、誠実に。前世で求められ、私が最も苦手としていたことだ。だから、無能は赦そう。だが、不正は除去されなければならない。人心は疲弊している。


「西北統治として、私の一歩目はシリッサにあると考える」

「リードラル卿」

「何か?」

「何が、その若さでその地位を築き上げたのしょうか?」

「話に関係のない質問ではあるが……答えよう」


 リセードがふと、こんなことを聞いてきた。

 別に答えてもいいかな。いや正直に言うと、どいつもこいつも私にやれやれ言うからです。になっちゃうんだけどね。なんかいい感じのあれないかな。顎に手を当てて考える。


「思考だ」

「思考?」

「あらゆる状況、感覚、想像を合わせて、もう一つの世界を持つこと。あらゆる状況や責任に対処するには、揺れない世界を持つ必要がある」

「?」

「そうだな……。魔法使いは魔力、信仰者は神を信じる。形は何でもいい」

「何かを信じるということでしょうか?」

「その上、心に持つという事だ」

「なるほど……」

「私のそれは思考だった。そして、思考が私を此処に連れてきた」


 考える悪癖なんだよなぁ。前世だと消耗するばかりで何の役にも立たなかったぞ。こんなこと考えても全く仕事に貢献できないし。むしろ邪魔でしたね。

 目を閉じ、何かを考えているリセード。他の皆も、何やら考え込んでいるようだ。別に深いこと言ってないから、そんな空気出さないでよね。


「……ありがとうございます」

「構わん。……話を戻そう」

「諸君には貴族としての役割を期待する。正しく、誠実に統治せよ」

「……はっ」


 反感が起こるだろうし、めんどくさいなぁ。でもどうしようもないんだよなぁ。くそわよ。アルバーネがネタバレするのが悪いんすよ。ま、しょうがないや。とりあえず釘は刺した。


「改めて……諸君、これから宜しく」


 そう言って一礼する。始まっちゃったなぁ、シリッサが。まぁもうやるしかないっす。最初からめちゃめちゃだけどね。

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