第10話 英雄と勘違いお嬢様

 「ユウマごっこ、はじめー!」


――それは、地獄の始まりだった。


広場の真ん中で、棒切れを構えた子どもたちが騒いでいる。

「やーっ!」「モンスターを倒せー!」

「村を守るんだ、俺が守る!」

「きゃー! ユウマさーん!」


……フルネーム出たな。完全に俺だな。


俺――悠真は、木陰からその光景を見て頭を抱えていた。


「やめてくれ……俺、そんなキャラじゃないんだよ……」


「すごいですよ悠真さん!」

隣でリサがきらきらと目を輝かせる。

「もう村の人気者ですっ。子どもたちの憧れですよ!」


「やめてくれ、俺の精神が憧れ死にしそうだ」


「ふふっ、人気者ね」

セレナが穏やかに微笑むが、口元にはうっすらと呆れの色。

「村の希望、だってさ。……光栄に思いなさいよ」


「いや、“希望”とか言われるとプレッシャーが天井突き抜けるんだけど」


「……どうせまた偶然で助けたんでしょ」

ミリアが呆れたように言う。

「運と間抜けの合わせ技、でしょ?」


「その言い方やめてぇぇぇ!!」


ツッコミを入れても、村の子たちはお構いなしだ。


「ユウマ、かっこいいー!」「勇者みたいー!」

あぁ、やめてくれ。俺は勇者じゃない。

――いや、勇者どころか、戦闘能力は“村人以下”なんだよ。


「ほんと、どうしてこうなるんだよ……」


「それが“英雄補正”ってやつじゃない?」

ミリアが肩をすくめる。


「やめろ、その補正いらない補正だ!」


セレナがくすっと笑う。

「ま、悪い気はしないでしょ? 英雄さん」


「悪い気しかしねぇよ!」


――そんな平和(という名の羞恥)な時間が続くと思っていた。


だが、次の瞬間。

家のドアがドンドン叩かれた。





「ユウマ殿――領主様からのご指名であるー!」


ドアを開けると、村長が汗だくで立っていた。

手には立派な封筒。金色の縁取り、赤い蝋封。


……嫌な予感しかしない。


「りょ、領主様って……あのガルド卿の?」


「うむ。“謁見を求む”とのことじゃ」


「俺、なんかやったっけ!? 犬の散歩とか?」


リサがテンションMAXで身を乗り出す。

「すごいです! ついに貴族デビューですよ悠真さん!」


「いや、俺は貧民モードでいいって!」


セレナは腕を組みながら冷静に言った。

「領主が呼ぶなんて……何か、勘違いされてるのよ」


ミリアがため息をつく。

「……どうせ、“村を救った英雄”扱いでしょ。ありがちなやつ」


「ありがたくないやつだよそれ!」


封を切ると、立派な書状が出てきた。

筆で書かれた文字が、いやに重い。


 『村の復興に尽力し、魔物を退けし英雄に感謝を。

領主館にて栄誉を与えるため、来訪すべし。』




「……完全に誤解してる」


「イベント発生ね」

セレナがぼそり。


「俺の平凡フラグはどこ行った!」


結局、三人娘も同行することになった。


リサ:「領主館って、お菓子ありますかね!」

セレナ:「……あなた、胃袋で貴族を判断しないで」

ミリア:「どうせまた、ろくでもないことになる」


悠真:「それ俺も思ってる!」




村を出て、3日後。


「……でかっ」


領主館を見上げて、俺は絶句した。

城じゃん。もはや館じゃない。

天井高っ、柱金っ。床、光ってる!


「ここでくしゃみしたら罰金取られそう……」


「やめてくださいよ、ほんとに取られそうです!」

リサが焦り、

セレナが冷静に言った。

「場違い感すごいわね……」


ミリアは壁の絵を見てぽつり。

「……あの絵、多分私の年収の三倍」


「庶民感バレるからやめようか!」


奥の扉が開く。

重厚な声が響いた。


「ふむ……そなたが村を救ったという若者か」


威厳たっぷりの領主――ガルド卿。

髭も立派。オーラも立派。俺は完全に場違い。


「い、いえ、その……俺はたまたま通りすがりでして……」


「謙虚であるな。実に立派だ」


「違うんですってばぁぁ!」


しかし、ガルド卿の視線が俺の腰に止まった。


「……その剣。まさか……!」


「これ? 村の倉庫で拾ったやつですよ?」


「伝説の《蒼紋剣》……! まさか再び姿を現すとは!」


「いやいや、これ錆びてますけど!? しかも刃欠けてますけど!」


館中がざわつく。

「伝説が蘇った!」「英雄だ!」

誰も聞いちゃいない。


セレナ:「もう、止めようがないわね……」

リサ:「すごいです悠真さん! 運命の剣ですよ!」

ミリア:「……はいはい、神話系モブ」


「モブって言うなぁぁぁ!!」





「父上、噂の英雄がこちらですの?」


声の主は――金髪のお嬢様だった。

おっとりした微笑み、リボンの髪飾り、完璧な“貴族お嬢様”ムーブ。


「あなたが……私の命の恩人なのですね!」


「え、初対面ですけど!?」


「違いますの! 私、夢で見たのです。蒼い剣を掲げる貴方の姿を!」


「それただの夢!!」


リサ:「きゃー、ロマンチックです!」

セレナ:「リサ、黙って」

ミリア:「……夢の中でもフラグ立てんのか」


クリスティア嬢は俺の手を握り、真っ直ぐ見つめた。


「あなたこそ、私の――運命の方ですわ!」


「運命じゃないっ!!」


「……運命ですの!」

「いやいやいや!」


ガルド卿:「やはり娘の夢は予言だったか……!」


「いやいや親公認で進行早いっすよね!?」


場が完全に“婚約フラグ進行モード”へ突入していた。





ガルド卿が立ち上がり、重々しく言った。


「我が娘を救いし英雄よ。

 感謝と敬意をこめ、娘クリスティアを――」


「えっ?」


「婚約者候補として迎え入れよう!」


「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」


大広間が歓声に包まれる。


「英雄殿万歳!」「めでたい!」

「めでたくねぇぇぇ!!」


リサ:「婚約者!? そ、そんなぁぁぁ!」

セレナ:「領主様、それはさすがに……!」

ミリア:「……ふぅん。やっぱりそうなるのね」


「その冷静なリアクションやめて!!」


「お嬢様! 俺、一般庶民ですから! 結婚したら経済破綻します!」


「いいのです! 愛に階級など関係ありませんわ!」


「ロマンス爆弾やめてぇぇぇ!!」


リサ:「悠真さん……そんなの、ずるいです……!」

セレナ:「……彼、今後十年は誤解され続けるわね」

ミリア:「ま、ざまぁ」


「なんで俺がざまぁされてんの!?」




夜。

ふかふかのベッドに寝転がり、俺は天井を見つめていた。


「……マジで婚約とか言ってたよな……?」


ベッドの柔らかさが逆に精神的に痛い。

隣の部屋ではリサとセレナの喧嘩声が聞こえる。


「どうして婚約なんてぇぇ!」

「落ち着きなさいリサ!」

「落ち着けるかぁぁぁ!」


――平和って、なんだっけ。


コンコン、とノック音。

ドアを開けるとミリアがいた。

月明かりが差し込む中、にやりと笑う。


「……おめでとう、英雄さん。玉の輿おめでとう」


「祝うなぁぁぁ!!」


「でもまぁ、似合ってたわよ。お嬢様と」


「やめろその爆弾発言!!」


ミリアはくすりと笑って、踵を返す。

「……せいぜい、楽しみなさい。残りの人生を」


「それフラグだからやめて!」


ドアが閉まり、静寂が戻る。

俺はため息をついた。


「……はぁ。俺、いつになったら脇役でいられるんだよ」


窓の外、月の下――。

闇の中で、黒い紋章が淡く輝く。

それを見つめる影が一人。


「“封印の鍵”は……選ばれる。今度こそ――」


風が鳴り、夜がざわめいた。



あとがき

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