第1話「生き返る男」<3>
未久は小さくため息をついた。
「どうしたの? 未久ちゃん」横を歩く航平さんに、ため息を聞かれてしまった。
「なんかモヤモヤする依頼だなって。悪戯じゃなかったとしても、奥さんには気の毒な話になりそうだし」
「その依頼者のモヤモヤを晴らしてあげるのが僕らの仕事じゃん」
引っ張るように、先頭を歩いていた優斗君が振り向いて、割り込む。
確かにそうだ。お別れを済ませた彼女の気持ちを守ってあげるためにも、この現象を解明してあげないと。そう思うと、心が仕事に向き直った気がする。
そのためには、まず目撃者の証言だ。それを得るために、依頼者がいつも通っていると言う商店街を歩いている。
「あの肉屋さんだよ」せかせかと前を歩く優斗君が、ひとつの店を指差した。
商店街の中にある店。年季の入ったショーケースに、様々な種類の肉が並べられていた。コロッケやメンチカツと書かれた商品札もあり、お腹が鳴るような匂いが充満している。
如何にも、お節介そうなおばあちゃんが接客をしていたので、そのおばあちゃんに依頼者のことを話すと、納得したかのような顔をして、興奮するように話し始めた。
「坂井さん夫婦のとこね。いつも二人で買い物してたよ。うちの肉も、よく買ってくれたしねぇ」
「最近、旦那さんの方に会ったというのは本当なんですか?」
「そうよ。二週間前ぐらいかな。珍しく一人でいらっしゃったから、『おつかいですか?』って聞いたのを覚えてるわ。そしたら何も言わずに行っちゃって」
「それって、本当に坂井さんの旦那さんでした?」
「後から奥さんから亡くなったって聞いた時はビックリしたわ。その時も、あの人は誰だったんだろうと考えてみたけど、旦那さんで間違いなかったわ」
この肉屋の方と同じ証言をする人ばかりだった。商店街の八百屋、魚屋、果物屋。亡くなっているはずのタイミングで、依頼者の旦那さんが訪れたという店で接客をした人たちの証言は、皆似たようなものだった。
聞き込みに夢中だったが、意外と時間が経っており、もう陽が沈みそうだ。
「幽霊なのかな」優斗君が、コロッケをかじりながら呟く。
「そうなら、早く成仏させてあげないと。生まれ変われなくなるな」航平さんが、メンチカツ片手に返答する。
もし、そうなら。この世の未練って何だろう。そんな疑問を浮かべながら、私はハムカツにかぶりつく。
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