第1話「生き返る男」<2>
通してもらったアパートの一室は、なんだか寂しさを感じさせた。微かな線香の匂いが漂う部屋で、お茶を頂きながら、私たちは彼女の話を聞くことになった。
「わざわざありがとうございます」
「いえいえ」未久は手をせわしく振った。
「で、ご依頼頂いたのは、どういった件なのでしょう」航平さんが、静かに問いかけた。
依頼者の彼女は、六十歳後半ぐらいかなという見た目。顔の張りがないわけではないが、佇まいというか、物腰柔らかそうな見た目から、そういう印象を受けたのかもしれない。
航平さんの問いかけで向き直った彼女は、真剣な眼差しで話し始めた。
「先日、夫が亡くなって。交通事故だったんですよ」
「それは、ご愁傷様です」
「いや、そんなことは大丈夫なのよ。一か月も前のことだし、葬式も終わっていることだから。突然だったから、最後に言葉を交わせなかったのは残念だったけど」
彼女の顔には、多少の悲しさがあるようにも感じ取れるが、意外とケロッとしているようにも感じる。そう努めているからなのかもしれないが、私たちにそうは感じさせない。
最初に感じた部屋の雰囲気にも合点がいった。この部屋は、ひとりで住むには少し広い。そう思ったのと同時に沸いた疑問がひとつ。
「お子さんはいらっしゃらないのですか?」
「息子が一人いるけどね。向こうはもう、家族がいるし」
ポツリと答えてくれた。どちらかと言うと、今の表情の方が寂しそうだ。
「依頼の話は?」
優斗君は我慢弱い。早く本題に入れと言わんばかりに声を上げた。私も脱線話を拡げようとしていたので、その声にハッとする。
「そうでした。わざわざ来ていただいたのに、世間話だけで帰ってもらうわけにはいかないものね」
少し笑顔を見せた後に、言葉を続ける。
「夫の交通事故の後に、夫に会ったと言う人が何人かいるのよ。近所の人たちに、夫が亡くなったことを報告しに行ったら、会ったって言われたの。そんな冗談を言うような人たちじゃないし、何かあると思うの。その原因をあなたたちに調べてほしいの」
死んだはずの人間が目撃された。この怪奇現象を解明するのが、私たちの初仕事だ。
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