掌編小説1

ぴこたん

夕暮れの中に残るもの

「あれ?こんな感じだったっけ?」

家の裏手にあるお寺を見上げると、花札の松と夕日が重なって見えた。

堀の水に誘われたのか、それとも夕日の色に呼ばれたのか。

赤とんぼが、静まりゆく景色の中を「私も混ぜて」と言わんばかりに視界を横切る。


にじむ焼けた色は、どこからか稲穂の香りを運んでくる。

「あぁ……」

胸の奥に生まれた感情は、言葉になる前に沈んでいった。


寂しくはない。それなのに、何かが足りない。

その“なにか”を探すように、もう一度空を仰ぐ。


「痛っ……」

目に雨粒が落ちた。運が悪い、そう思いながらも笑ってしまう。

きっと私は、雨が近づいてきている声を、ずっと聞いていたのだ。


探していたのではなく、向こうから話しかけてくれていた。

そう気づいた私は、不思議と上機嫌だった。

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掌編小説1 ぴこたん @Elnika-Flose

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