第12話 認めたくない成長
振り返ると、そこには汗を拭いながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべたライオネルが立っていた。
「……ライオネル様」
「ふん。貴様も見ていたんだろう。どうだった?俺の試合は」
ライオネルは、アイオニアの顔色を窺うように問いかけた。その表情は、相変わらずの傲慢さの中に、自分の功績を褒めてほしいという欲求が垣間見える。
闘技場でのライオネルの姿を思い出し、その時の自分の感情の揺らぎも同時に思い出したアイオニアは、一瞬どきりとしたものの、すぐに平静を装う。
「それよりも、ライオネル様。なぜ魔法の部に出場なさらなかったのですか?魔術学園では、魔法の部がメインでしょう」
ライオネルは鼻で笑った。
「ふん、何を言う。魔法の部など、出るまでもない。優勝はこの俺だと、わかりきっているのだからな」
(あきれた傲慢さだわ……。しかし、その自信に裏打ちされた努力を、私は先ほど目にしている……)
「相変わらずの自信ですね。ですが、あの試合、剣の技術はレオニス様の方が上手。ライオネル様はまだまだ粗削りな部分があります。」
「な…!」
ライオネルは激昂しかけたが、すぐに怒りを抑えた。
「勝ちは勝ちだ。認めろ、俺は強くなった。俺の才能に恐れたか?魔法の才にも恵まれ、剣の才にも恵まれているこの俺が羨ましいのではないか?」
ライオネルはしつこく、アイオニアに何かを言わせたいようだった。彼の剣の道が、アイオニアの無関心というたった一つの動機から始まったのだと、改めて突きつけられる。
アイオニアは、心の中で確かに「すごい」と思っていた。あの傲慢な彼が、たった一年であのレオニスに勝利するほど努力した事実。剣の道がいかに険しいか、アイオニアは身をもって知っている。才能だけでは強くなれない。日々の鍛錬が何より大切なのだ。
しかし、それを口に出せば、ライオネルはさらに付け上がり、ますます彼女に執着するだろう。それでは、平穏な離縁という目標が遠のいてしまう。
「……努力は、認めますわ。しかし、それは私の目指す剣聖の道とは比ぶべくもありません」
アイオニアはそう言い捨てると、ライオネルに背を向けた。
ライオネルは、アイオニアの背中を睨みつけた後、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「ふん。見ていろ、アイオニア。貴様が私を認めざるを得ない瞬間は、すぐに来る」
その後の試合で、ライオネルは三回戦、四回戦と順調に勝ち進んだ。彼の剣は、技量よりも勢いと気迫、そして生まれ持った身体能力の高さで、魔術学園の生徒たちを次々と打ち破っていった。
アイオニアは、ライオネルの試合を観戦しながら、内心で驚嘆していた。
(このままでは、本当に彼が優勝してしまう。破滅ルートでは、ライオネル殿下はこんなに強くなかったはず……。私の行動が、彼を変えてしまった。)
そして、いよいよ決勝戦。ライオネルの対戦相手が発表された。
『決勝は、第二王子ライオネル・クレイドール殿下と、卒業後王立騎士団への配属が決定している、6年生アルベール・グレイ子爵令息の対決です!』
上級生であり、既に騎士団入団という実力を持つアルベール。誰もがアルベールの勝利を疑わない中、ライオネルの表情は、どこまでも挑戦的だった。
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