第11話 迷子の少年と、もう一つの出会い
ライオネルとレオニスの試合が終わった後も、闘技場の熱気は冷めやらなかった。
(あのライオネルが、まさかここまでやるなんて…)
戸惑うアイオニアの隣で、侍女のララがキラキラした目でつぶやいた。
「ライオネル殿下、すごかったですね!きっとアイオニア様の影響ですよ!」
「……っ」
自分の影響で、運命が変わってしまったというのか。
(ライオネルは私になんて興味がないはず。なのになぜ……?!)
アイオニアは苛立ちを覚えた。
「ララ、ちょっと会場の熱気にあてられたみたい。少し頭を冷やしてくるわ。ここで待っていてちょうだい」
アイオニアは冷静を装い、ララにそう告げると、一人で闘技場を後にした。
魔術学園の敷地は広大で、美しい庭園や歴史ある校舎が立ち並んでいる。アイオニアは、かつてゲームで見た風景を思い出しながら、気分転換にと足を進めた。
庭園に出ると、噴水の前に小さな男の子が蹲っているのを見つけた。年の頃は5歳くらいだろうか。大きな瞳に涙をいっぱいに溜め、きゅっと唇を結んでいる。
「どうしたの、坊や?迷子かしら」
アイオニアは優しく声をかけた。前世で病弱だった頃、病院で幼い子供たちと接する機会が多かったせいか、子供相手には自然と柔らかな表情になる。
少年はコクリと頷き、泣きそうになるのをこらえながらぽつりぽつりと話し始めた。
「お、お兄ちゃんの、試合を、見に来たんだ…。でも、一緒に来たじゅうしゃとはぐれちゃった」
「そう……。じゃあ、お兄さんを探しに行きましょう。私がお手伝いするわ」
アイオニアは少年の小さな手をそっと握り、ゆっくり歩き始めた。
少年はアイオニアを見上げ、にっこりと笑った。
「お姉ちゃん、ありがとお」
かわいい。かわいすぎる。
水色がかった透き通るようなさらさらな髪の毛。くりくりの目。まるで天使のようだ。
「はやく見つかるといいね」
しばらく歩いていると、遠くから焦った様子で駆け寄ってくる青年がいた。
「ユーリ!ユーリ、どこにいたんだ!」
その声に、少年は顔を上げた。
「お兄ちゃん!」
(!!!)
少年が駆け寄っていったのは、攻略キャラクターの一人、クレイトスだった。クレイトスは、弟のユーリが無事なのを確認すると、ホッと安堵のため息をついた。
「ユーリ、心配したんだぞ!一人になるなと言っただろ…」
クレイトスは弟を抱き上げ、そしてアイオニアに向き直った。
「私の弟を保護してくださり、ありがとうございます。ラディウス侯爵令嬢……まさか、あなたに助けていただくとは」
クレイトスが丁寧に会釈をする。
クレイトスとは、前世でも多少の交流はあった。けれど私は剣も魔術も平均以下。武術を嗜む家系であるラディウス家の人間として学園へ通ってはいたけれど、クレイトスのような優等生とは縁がなかった。
「いえ…。無事に見つかってよかったです。わたくしのことをご存じなのですか?」
「ふふ、この学園で貴女を知らないものなどおりませんよ。王国の砦とも言われているラディウス侯爵家のご息女なのですから。そして、ライオネルの婚約者であらせられる。なんでも、あいつが剣術を始めたのは貴女の影響なのだとか」
「!! あいつ、学園でも私のことを馬鹿にして…?!」
「馬鹿になどしておりませんよ。まあ、口が悪いのはいつものことですから…。」
「それって、私のことを悪く言ってるってことですよね」
「まあまあ…」
クレイトスがクスクスと笑う。
(クレイトスって、こんなに表情豊かに笑うのね。)
「ユーリ様ーーーーー!!!!!!!」
そう叫びながら、血相を変えて走ってくる人影が見えた。
「おや、うちの者がやっときたようだ。あとで仕置きだな。ではクレイトス嬢、また…」
「ええ、失礼いたします。よかったね、坊や。お兄さんが見つかって」
アイオニアは少年の目線に合わせるようにしゃがみこみ、にっこりと笑いかける。
「うん!」
クレイトスとユーリと別れ、アイオニアは闘技場に戻ろうと、一歩を踏み出した。
その時。
「おい」
背後から不機嫌そうな声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます