第9話 突然の招待状

アイオニアが12歳になったある日、侯爵家にライオネルからの手紙が届いた。

突然の手紙に、アイオニアは眉をひそめた。11歳の誕生日の一件以来、顔を合わせていないからだ。


(また何か、くだらない嫌味か、私を試すような内容かしら。)


しかし、手紙の内容は意外なものだった。


『親愛なる婚約者アイオニアへ。私は現在、王立魔術学園に通っている。来月、学園で年に一度の武闘大会が開催されるので、ぜひ見に来てほしい』


(魔術学園……私が聖女アイリと出会った場所)


魔術学園は、アイオニアにとって因縁の場所だ。

乙女ゲーム『光の聖女と白薔薇の王子たち』の主要舞台であり、攻略対象となるキャラクターたちが集まる場所だからだ。アイオニア自身も、あと二年後には通うことになる。


ゲームの記憶と照らし合わせ、主要キャラクターたちの情報を頭の中で整理する。


第一王子アシュレイ:未来の聖女アイリの第一攻略対象。ライオネルの兄で、文武両道の完璧な王子。魔術の才は弟をしのぐほどであり、この武闘大会にも顔を見せるはず。


公爵令息クレイトス:ライオネルの同級生。剣士の家系だが、優れた魔法の使い手で優等生。


神官長ルーク:王宮神殿の神官で、若くしてその実力は一級品。神聖魔法の使い手で、聖女アイリとは神殿での出会いから親しくなる。神聖魔法の授業を担当している。


レオニス:平民だが、剣の腕は本物。無骨だが真っ直ぐな性格で、聖女アイリを心から慕うことになる。


(ふむ。皆、ゲームでは聖女アイリに魅了され、私の断罪に加担する人物たちね。……まあ、今はただの生徒よね)


アイオニアは、彼らとの接触は避けるべきだと判断しつつも、内心では僅かな好奇心を抱いていた。


「情報収集のために出向いてみるのもいいかもね」


そして、武闘大会当日。アイオニアは兄ディオン、エリス、侍女のララと共に魔術学園の闘技場を訪れた。


観客席は熱気に包まれており、魔法を使った華麗な戦いや、剣術による迫力のある試合が繰り広げられていた。


「ライオネル殿下は、やはり魔法の部にご出場なのでしょうか?」


ララが小声で尋ねた。ライオネルは魔法の才に恵まれた王家の人間、魔法の部に出場するのは自然なことだ。アイオニアも当然そう思っていた。


しかし、魔法の部の出場選手名簿にライオネルの名前は見当たらない。


「おかしいわね……。人のことを呼びつけておいて、出場していないのかしら?」


アイオニアが不審に思っていると、アナウンスが響き渡った。


『続きまして、剣術の部、二回戦!我が国の第二王子、ライオネル・クレイドール殿下と、若き才能に溢れたレオニス・ダランの登場です!』


「……は!?」


アイオニアは思わず目を見開いた。ライオネルが剣の部に、しかもレオニスという強敵相手に、出場しているのだ。


(あのわがまま王子が、本当に剣を……!?)


闘技場の中心に立つライオネルは、前世でも見たこともないほどに真剣な眼差しをしていた。

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